鉛蓄電池の劣化機構の中でももっとも重要と考えられる,電極表面への硫酸鉛結晶の固着(サルフェーション)を抑制するために電解液にある種の高分子添加剤を添加し,充放電特性の改善と寿命延長を可能とする新技術(特許第5616043号)の効果を材料科学的に検証した上で,その原理を解明し更なる改良の方向性を見出すことを目的として,下記の実験をおこない成果を得た. 1.目的に適した充放電試験の方法を確立し,電解液の硫酸濃度および電解液に添加する高分子添加剤の種類と濃度が,充放電挙動と電極表面に生成する硫酸鉛結晶の形状に及ぼす影響についての,再現性のある結果を得ることができるようになった.特許に記載されている高分子添加剤の添加が,結晶の微細化と充放電挙動の改善に効果があることを確認した. 2.硫酸鉛結晶の形状変化に対して添加した高分子添加剤がどのように関わっているかについては,当初計画した材料評価の手法では,明らかにすることができなかった.生成後の結晶を対象とする分析ではなく,生成過程の挙動を観察する手法が必要と考えられる. 3.充放電試験の方法を確立することに時間を取ったため,高分子添加剤の種類や電解液温度の影響,長時間あるいは間欠的な部分充放電といった実用的な使用条件での効果の評価など,当初計画した実験が十分おこなえていない部分が多く残されている.研究期間終了後も,これらについての実験を着実に継続し,目的達成のため更なる知見を積み重ねていきたい. なお,成果の公表については,すでに成立している特許との関係を精査してからおこなう予定である.
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