研究概要 |
本研究は、2'-ヒドロキシイミダゾ[1,2-a]ピリジン(HPIP)の固体ESIPT発光に着目し、化学修飾による直接的かつ大きな電子状態制御(粗調整機構)と、分子集積構造変化による微小の発光特性制御(微調整機構)を二元制御機構ととらえ、固相発光の波長範囲を広くかつ段階的に制御可能にする新しい方法論を確立し、新しい有機固体発光材料の創成を目的とする。二年目にあたる本年度は、「微調整機構」の有用性の確立を目指し、分子集積体の作成とその発光特性との関連性について以下の成果を得た。 前年度までに合成した十数種類のHPIP誘導体(J. Org. Chem. 2013, 78, 2482.)について、結晶作成を種々の条件下でおこない、多くの誘導体で二種類以上の結晶を得ることに成功した。発光スペクトルの結晶多形依存性は、化学修飾による発光変化と比較して一般に小さかったが明確であり、微調整機構という方法論の有用性評価に向けた重要な基礎データが得られた。 なかでも6-シアノHPIPは結晶構造に依存する三色の発光を示したことから、結晶多形と発光特性との関連性を検討する適切な系と考え、分子軌道計算TD-DFT法を用いて分子パッキングが発光エネルギーに与える影響を検討した(CrystEngComm, 2014, 16, 3890.)。単一分子、二分子、ONIOM法など種々のジオメトリを比較した結果、π-スタックした二分子で実測値を定性的に再現し、最近接分子との相互作用が発光特性変化に重要であることが示唆された。さらに、多分子系の計算に有効とされるFragment Molecular Orbital (FMO) 法を用いて、3~17分子からなるクラスターについても計算した(Phys. Chem. Chem. Phys. 2014, DOI:10.1039/c3cp55461a)。
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