研究課題
本年度はアパタイト型イオン伝導体セラミックスの酸素拡散係数を得ることを目的に、同位体酸素を用いた試料のアニールを行って内部に拡散した同位体酸素のプロファイルを二次イオン質量分析計によって評価した。以上の実験は産業技術総合研究所において実施させて頂いた。試料は高いイオン伝導性と高い化学的安定性の得られる組成[0.995La10(Si5.8Al0.2)O26.9-0.005(FeOg)]とした。試料の全伝導度は1073 K、大気下において5.6x10-2 S cm-1 、Hebb-Wagner法によって評価した試料の電子伝導度はp型半導性挙動を示し、同温度において2.0x10-4 S cm-1 以下であった。以上より試料は輸率がほぼ1(> 0.996)の純粋なイオン伝導体であることが明らかとなった。この試料について同位体酸素拡散係数(DO*)を評価すると973 Kにおいて8x10-9 cm2 s-1、1073 Kにおいて2x10-8 cm2 s-1と評価された。得られた拡散係数と、伝導度から見積もった拡散係数(Dcond)を比較すると、Dcondの値はDO*の値の数倍となったことから、この系では酸素のイオン拡散が共線的準格子間拡散機構のような非常に効率の良い方法で行われることにより高いイオン伝導度を実現できていることが本研究により初めて明らかとなった。今後、本材料の非等方的なイオン伝導機構を考察するには配向体を作製し、構造解析、振動モード解析、ならびに同位体拡散係数の評価を行うことが必要である。本年度は溶融ガラスの結晶化手法をさらに発展させ、伝導度の高いc軸方向に配向度92%以上で優先配向させた大面積イオン伝導体を作製することにも成功しており、最終年度となる次年度にはフラックス法により既に作製済みの単結晶、あるいは上述のガラス結晶化手法を用いて作製した配向体を用いた物性評価を実施する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
アパタイト型イオン伝導体セラミックスの同位体酸素を用いた拡散係数評価を世界に先駆けて実施することにより、この系では酸素のイオン拡散が共線的準格子間拡散機構のような非常に効率の良い方法で行われることで高いイオン伝導度を実現できていることが明らかとなった。本材料における準格子間拡散機構によるイオン拡散は計算科学の立場からは提案されているものの、実験的にその可能性を示したのは初めてであり、当該材料のイオン伝導機構の全容解明に迫る重要な成果を得たと考えられる。加えて伝導度の高いc軸方向に高度に配向したイオン伝導体の作製、バルク単結晶を得ることも可能になり、今後単結晶あるいは配向体を用いた物性評価を実施することで、次年度にアパタイト型高速イオン伝導体における非等方的イオン伝導機構の解明に向けた取り組みが着実に実施できるものと考えられる。
アパタイト型イオン伝導体についてこれまでに確立したX線構造解析、ラマン分光測定による酸素振動モード解析、ならびに二次イオン質量分析計を用いた酸素同位体拡散係数評価の手法を単結晶ならびに配向体に適用することで、結晶の各軸方向のイオン輸送を詳細に評価することでアパタイト型高速イオン伝導体における非等方的イオン伝導機構の解明を行う予定である。
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Solid State Ionics
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