本年度は、ランタンシリケート(LSO)単結晶の作製手法を確立し、完成した単結晶の導電率ならびに内部の酸素拡散係数の計測を実施することで、イオン輸送特性を明らかとすることを目指した。具体的には、フッ化ランタンを用いるフラックス法において作製条件を種々検討したところ、La:Si=10~11:6の仕込み組成を持つ原料を用い、炉内の昇降温パターンを最適化することによって従来の5倍程度大型のLSO単結晶を得ることに成功した。作製したLSO単結晶の組成はLa : Si =9.6 : 6 であった。LSOはイオン伝導の異方性を持つため、各軸方向の導電率や酸素拡散係数を評価することはイオン伝導機構解明に向けて有効であり、今回簡便な方法でLSO単結晶の作製に成功した意義は非常に大きいと言える。しかしながら、本手法では高伝導性を示す高La量のLSOの作製は行えなかった。これはフラックスのフッ素成分が試料に残存することでLa活量を高めにくいことが要因と思われる。 作製したLSO単結晶のc軸方向の導電率測定を行ったところ、600℃で210-4 S cm-1という値を示し、材料内を酸化物イオンが速い速度で輸送可能であることが分かった。産業技術総合研究所の支援の下、二次イオン質量分析計を用いた同位体酸素拡散係数測定を実施したところ、結晶のc軸に平行な方向の拡散係数がc軸に垂直な方向のそれに比べて高いことが明らかとなった。一方、イオン導電率の値からNernst-Einsteinの関係を用いて求めた拡散係数と同位体実験で求めた拡散係数を比較すると、後者が二桁以上低い値であった。この大きな差について、本材料系では拡散係数はそれほど大きくはないにもかかわらず、c軸方向に効率よくイオン輸送が行える構造を持つことが一つの要因となっていると考えられた。
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