研究課題/領域番号 |
24550238
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
大澤 善美 愛知工業大学, 工学部, 教授 (80278225)
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キーワード | リチウムイオン電池 / 炭素 / シリコン / CVD |
研究概要 |
本年度は、前年度に引き続き、(1)コア用材料の検討として、「高容量低結晶性炭素の合成条件の解明」、および(2)シェル材料の検討として、「熱分解炭素ならびにシリコンコーティング条件と表面構造および電気化学的特性との関係の解明」について検討した。 (1)については、前年度のセルロース繊維炭素化物での結果を受け、木質炭素化物(杉)をコア用材料として選定し、炭素化温度の違い、及び熱分解炭素コーティングによる影響について、構造解析と電気化学的特性評価を行い考察した。また、低結晶性炭素ではないが、比較材料として既存負極である黒鉛粒子についても検討した。作製した木質炭素化物および熱分解炭素コーティング試料について、XRDパターンおよびBET比表面積を解析した結果、熱分解炭素膜は、木質炭素化物よりも結晶性は高いが、黒鉛粒子よりは結晶性は低いことを見出し、また、いずれのコア炭素を用いても、ナノメータースケールで非常に緻密な熱分解炭素が析出したことを明らかにした。電気化学的特性評価より、セルロース繊維炭素化物同様、木質炭素化物を用いても黒鉛の理論容量(372mAh/g)より高い容量を示すこと、容量は炭素化温度が低いほど高くなることを明らかにした。また、コーティングにより、いずれのコア炭素を用いても不可逆容量が減少することを見出した。 (2)については、本年度は主にシリコンコーティング条件について検討した。セルロース繊維炭素化物をコア炭素に用いて、四塩化ケイ素-水素ガス系から800~1000℃でCVD処理を行うことで、数十nm厚の薄膜状で結晶性のシリコンが析出することを見出した。20wt%のシリコンを析出させた試料について充放電測定を行った結果、コア炭素の容量(450-500 mAh/g)を超える950 mAh/gの容量が得られることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は,【1】コア用材料の検討として、前年度のセルロース繊維炭素化物に引き続き、その他の高容量低結晶性炭素の合成条件の解明、および【2】シェル材料の検討として、熱分解炭素ならびにシリコンコーティング条件と構造および電気化学的特性との関係の解明についてであった。 【1】については、前年度、セルロースで良好な結果が得られたことを受け、セルロースとリグニンを主成分とする木質炭素化物を選定し、系統的に炭素化条件を吟味し、黒鉛を超える容量(372 mAh/g)以上が得られる条件について検討した。その結果、杉を、700から1000℃で、アルゴン雰囲気中、4時間炭素化することで、372 mAh/g以上の容量が得られることを見出した。特に800℃で炭素化した木質炭素化物は、コーティング処理を行えば522 mAh/gと大きな容量が得られた。このように、セルロース繊維に加えて、木材でも黒鉛を超える高容量炭素の合成条件を見出すことができ、充分な研究の進展が得られたと考えられる。 【2】について、本年度は主にシリコンの析出条件について検討を進めた。その結果、四塩化ケイ素-水素ガス系から800~1000℃でCVD反応を行わせることで、20wt%の析出量で数十nm厚の薄膜状で結晶性のシリコンが析出することを見出した。本試料について充放電測定を行った結果、コア炭素の容量(450-500 mAh/g)を超える950 mAh/gの容量が得られることを明らかにし充分な研究の進展が得られた。熱分解炭素コーティングに関しては、前年度のプロパンガス系からの析出に加え、ベンゼン系など他のガス系からの析出を試みる予定であったが、シリコンの析出を主に検討したため、前年度と同程度の知見が再現よく得られることを確認した段階である。
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今後の研究の推進方策 |
1.コア用材料の検討 本年度は、前年度までに検討したセルロース繊維、木質材料に引き続き、合成高分子であるフェノール系、およびメラミン系を検討する。特に、高容量が得られた材料について、合成条件の最適化を行い、容量等に強く影響する構造因子を見出し、各材料系からの高容量低結晶性炭素の合成条件を明らかにする。なお、比較材料として、既存の負極用炭素である黒鉛粒子についても評価する。 2.シェル材料の検討 熱分解炭素コーティングについては、本年度は、前年度までに引き続き、プロパンガス系からのコーティングを検討するとともに、アセチレン、及びベンゼンガス系からのコーティングを検討する。CVD条件を吟味することで炭素薄膜の構造を精密制御し、構造と電気化学的特性との関係を詳細に検討する。続いて、これまでに得られた炭素およびシリコンコーティング条件に関する知見をもとに、シリコンと熱分解炭素を複合化したシェルの被覆を試みる。シリコン膜で大容量化を、熱分解炭素膜で電解液分解の抑制による高効率・安全性向上の機能の複合化を検討する。複合化した試料の構造と電気化学的特性との関係を調べ、得られた知見を総合的に取り纏め、原料、合成条件と構造の関係の解明、構造と電気化学的特性の関係解明を行い、解明された考察を元に、低結晶性炭素から最適な表面構造を構築した新規な高容量で安全性の高い炭素を開発する。可逆容量は現行の黒鉛より3倍ほど高く、大きな容量ロス(200 mAh/g以上)を黒鉛程度(50-100 mAh/g程度)まで低減することを目標とする。又、本研究で得られる表面ナノ構造と電気化学的特性との相関に関する基礎的知見を、電極材料の表面化学分野の進展に活かすため、負極炭素だけでなく、新規負極として期待されるチタン酸リチウムなどの表面構造設計のための指針として取りまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度の研究では、シリコンシェル材料の検討に注力したため、シェル材料の熱分解炭素コーティングにおいては、当初はプロパン系以外のガス系からの析出につても検討する予定であったが、詳細な解明は未着手であった。そのため、その他の電気化学的特性評価用に予定していた電解液などの使用量が、予定よりやや少量となり、次年度使用予定の研究費が発生した。しかし、その額は6万円以下であり、全予算に対する比率は小さい。 次年度の研究費の使用計画は以下を予定している。コア炭素の原料費の購入を行い、その合成のための装置(炭素化炉)の消耗部品を購入する。また、シェル用炭素やシリコンのコーティングのための原料(ガス類)の購入、コーティング用CVD装置の消耗品、例えば石英製反応炉の製作、修理、真空ポンプオイルなどを購入する。試料の構造解析としては、元素分析(ESCA)による表面C,O組成、X線回折法、ラマン分光法、TEMなどによる結晶性やナノ構造解析、窒素吸着法による表面ポア解析などを予定しており、そのためのガラスセルや冷媒などの必要品を購入する。さらに、電気化学的特性として、容量、クーロン効率、サイクル特性、レート特性を評価する。そのため、ガラス製電池セル、電極用リチウム、電解液などの消耗品を購入する。
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