本研究では、リチウムイオン電池負極用炭素の可逆容量、不可逆容量、サイクル特性、安全性などの電気化学的特性向上を目的に、1000℃前後以下で熱処理された低結晶性炭素をコア材料として用い、独自の手法である圧力を変動させるパルスCVD/CVI法を利用して、高結晶性熱分解炭素、ならびにシリコンをシェル材料として多層被覆した新規炭素の合成について検討した。 コア用材料の検討については、前年度までに、セルロース繊維、木材を用いて、800℃から1000℃で炭素化することで、黒鉛の理論容量(372mAh/g)より高い容量を示すことなどを明らかにした。また、シェル材料の検討に関し、熱分解炭素をコーティングすることで、いずれのコア炭素を用いても不可逆容量が減少することを見出した。又、数十nm厚の薄膜状で結晶性のシリコンを20wt%析出させた試料について充放電測定を行った結果、コア炭素の容量(380-500 mAh/g)を超える950 mAh/gの容量が得られることを明らかにした。 本年度は、これまでに得られた炭素およびシリコンコーティング条件に関する知見をもとに、シリコンと熱分解炭素を複合化したシェルの被覆を試みた。セルロース繊維炭素化物をコア材料として、まず、シリコン薄膜のみをコーティングしたところ、初期容量は、前述の通り950 mAh/gであったが、クーロン効率が66%と低く、充放電サイクルによる著しい容量低下が見られた。シリコンコーティングの後、さらに熱分解炭素膜を7wt%析出させたところ、初期容量1150 mAh/gを示し、初期クーロン効率は84%と向上した。また、サイクル特性の改善も見られた。 以上、本研究により、シリコン膜で大容量化を、熱分解炭素膜で電解液分解の抑制による高効率・サイクル特性向上の機能の複合化が可能であることを明らかにした。
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