研究課題/領域番号 |
24550245
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
窪田 健二 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40153332)
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研究分担者 |
行木 信一 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80302959)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フィブリンゲル / N結合糖鎖 |
研究概要 |
本年度の当初計画は、(1)種々の断片試料の調製とインタクトフィブリノゲン(Fbg)との混合系での凝集特性の解析、(2)変異導入部位の探索と変異体試料の調製としていた。(2)の調製については、CHO細胞を用いて作製する予定としていたが、より簡便で効率的な方法としてバキュロウイルスー昆虫細胞発現系を用いた調製を並行して進めることとした。 そこで本年度は、変異導入の候補部位の探索・基礎情報の収集を先行させた。そのために、静電相互作用の関与を検討するために、種々の塩濃度条件で、糖鎖切除、シアル酸切除Fbgの凝集特性、シアル酸の添加効果の解析を進めた。その結果、インタクトFbgでは顕著な凝集の抑制・遅延、とりわけラテラル凝集の抑制が起こる高塩濃度下でも、糖鎖・シアル酸の切除は顕著なラテラル凝集の促進をもたらし、プロトフィブリルの成長からラテラル凝集への移行に糖鎖、なかでも末端シアル酸が関与し、調節していることがわかり、糖鎖の関係する部位との相互作用は特異性を持ったものであり、、静電相互作用の寄与はマイナーであることがわかった。 シアル酸とそれに続くガラクトースの両方の切除がシアル酸のみの切除と同等の効果を持つことから、糖鎖の特異的な相互作用には糖鎖末端のシアル酸の構造を認識する部分がFbg分子中央部に存在し、ラテラル凝集を担うと予想されるBβ鎖N端部のリリースを制御していることが示唆され、変異導入部位についての重要な情報が得られた。 また(1)については、αC鎖断片試料、Bβ鎖N端部断片試料の調製に加えて、Fbg分子中央部を切り出したNDSK断片、N結合糖鎖を含む糖ペプチド断片試料の調製に成功した。特に、Bβ鎖N端部はFbgのD領域と相互作用することが SPR測定で認められ、糖鎖によるラテラル凝集への移行の調節メカニズムについての重要な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初計画は、(1)種々の断片試料の調製とインタクトフィブリノゲン(Fbg)との混合系での凝集特性の解析と(2)変異導入部位の探索と変異体試料の調製を予定していた。 (1)のうちのαC鎖断片試料については、C端から約400残基のαC全域部の作製が完了している。Bβ鎖N端部66残基の調製についても完了し、相互作用解析をすすめている。さらに、Fbg分子中央部N-terminal disulfide knot(NDSK)、N結合糖鎖をそのまま保持したペプチド断片の作製にも成功した。これらのうち、Bβ鎖N端部とFbg分子D領域との相互作用の存在をSPR測定により認めたことから、プロトフィブリルの成長からラテラル凝集への移行において、Bβ鎖N端部のリリースが重要であるというわれわれが想定しているスキームを支持する結果が得られた。 (2)については、全長型のFbgの調製方法を検討した結果、当初計画でのCHO細胞を用いるよりもバキュロウイルス-昆虫細胞を用いるほうが、簡便かつ安全に大量発現が短い期間で可能であること、糖鎖修飾も可能な昆虫細胞株が利用できることから、昆虫細胞を用いた方法もあわせて進めることとした。その上で、N結合糖鎖との相互作用を検討するため、当初計画でも予定していた変異導入の候補部位の探索を進めた。その結果、FbgのN結合糖鎖は糖鎖末端のシアル酸‐ガラクトースの構造を認識する特異性を持ってFbg分子と相互作用し、静電相互作用の寄与は小さいことを示唆する結果が得られた。このことから、糖鎖との相互作用部位の候補をある程度限定することができたと考えられる。 以上の結果から、当初の計画に対して、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Fbg断片試料間の相互作用解析: 各種断片試料の調製はほぼ完了し、そのプロトコルも確立したことから、それぞれの断片間でのSPRを用いた相互作用解析を順次進める。Bβ鎖N端部とFbgのD領域の相互作用解析については、Aノブ及びBノブアナログペプチドを用い、プロトフィブリル形成にともなうコンフォメーション変化の可能性についても検討する。 (2)変異体試料の調製と凝集特性解析: 変異体試料の調製については、正常型のFbgをまず大量調製し、リコンビナントFbgがインタクトFbgと差異がないことを確認する。その上で次に、本年度の成果に基づき、Bβ鎖N端部15~56残基のうちでもCoiled-Coil側の43~56残基部分が糖鎖非還元末端シアル酸と相互作用する可能性が高いと予想できることから、この部分に変異を導入した変異体を作製する。Bβ57~70にはトロンビンとの結合部位があるので、この部分への変異導入はFbg分子を質的に変えてしまうので考えない。糖鎖末端のシアル酸‐ガラクトースの構造を認識するヘマグルチニンの認識部位の主要部位として・・・KXXDQというシーケンスが求められているが、この43~56の部分にも・・・KAAATQ・・・という類似したシーケンスがあり、相互作用する部位としての可能性は高いと考えられる。精製には、モノクローナル抗体を用いたアフィニテイクロマトを用いる。それぞれ調製する変異体試料として2mgを目指す。 さらに、変異体調製のプロトコルが完成すれば、αC鎖を持たない変異体Fragment-Xの作製も容易となるので、αC鎖とからめた糖鎖-Bβ鎖N末端領域 (あるいは、Fbg中央部)の相互作用解析に進むことが可能となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰越を生じた理由は、変異体Fbg試料の調製にCHO細胞による方法と並行して、バキュロウイルス‐昆虫細胞(Mimic Sf9細胞) を用いるとしたことから、それらを同時進行的にできるように細胞株、大量培養のための培地、種々の酵素類や、精製のためのモノクローナル抗体試料の購入費用が次年度に持ち越されたためである。次年度では、これらを用いて各種の変異体を作製する。調製・作製する量の目標として2mgをめざす。そのために、効率的な培養条件、精製条件の検討を十分に行う必要があることから、上記の購入量が多少とも多くなることが予想でき、研究費に余裕が必要である。
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