研究課題/領域番号 |
24550252
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
鳥飼 直也 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70300671)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 高分子コンポジット / 親水性シリカ / カーボンブラック / 高分子吸着 / 分散安定性 / 分散媒 / サスペンション / 凝集形態 |
研究概要 |
初年度は,比較的密度の高いフュームドシリカ,コロイダルシリカ,カーボンブラックを用いて,それらを高分子溶液に分散させたサスペンションから溶媒をキャストして得たバルク・薄膜試料を対象に,高分子コンポジット中での固体粒子の分散・凝集状態を調べた。 親水性フュームドシリカをポリスチレン(PS)のクロロホルム溶液に分散させたサスペンションから溶媒キャストにより得たバルク試料では,単にPS溶液に分散させた場合と比べて,表面に高分子が物理吸着していることで,フュームドシリカのPSマトリックス中での分散性が著しく向上することが判った。また,マトリックスのPSと非相溶なポリ(2-ビニルピリジン)を吸着させた方が,マトリックスと同種のPSを吸着させた場合よりもフュームドシリカの分散性が高いことが判った。PSマトリックス中に分散したフュームドシリカの質量・表面フラクタル次元は,系に依らずほぼ一定の値を示し,高分子マトリックス中にあってもフュームドシリカ単独の場合と大きく変わらないことが判った。 単粒子の親水性コロイダルシリカをPS溶液に分散させたサスペンションについて,極性の低いトルエンあるいはシクロヘキサンを溶媒に用いた場合には振とうを停止した直後からシリカが沈降し始めたのに対して,極性の高いp-ジオキサン溶液中ではシリカの分散が比較的長い間維持されることが判った。これらサスペンションをシリコン基板上にスピンコートして得た薄膜試料では,薄膜の表面ミクロ構造とコロイダルシリカの凝集形態が溶媒種の違いによって異なることが判った。 このように高分子コンポジット中の固体粒子の分散・凝集をサスペンション中に作り出すコロイド化学的な相互作用の違いによって制御する,本研究の狙いを支持する重要な結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,無機・有機の固体粒子を分散質として高分子溶液中に分散させ,固体粒子に吸着した高分子による立体作用,非吸着高分子による枯渇作用等のコロイド化学的な相互作用を変えることで,それらサスペンションから溶媒が揮発してバルク・薄膜に至るまでの固体粒子の分散状態・凝集形態の違いを明らかにし,サスペンションを経て調製される高分子コンポジットの物性を制御することを目的とする。研究期間の初年度は,比較的密度の高いフュームドシリカ,コロイダルシリカ,カーボンブラックをポリスチレン(PS)に分散させたバルク・薄膜試料について,サスペンション状態での固体粒子への高分子吸着,吸着高分子や分散媒の違いによって,PSマトリックス中でのそれら固体粒子の分散状態・凝集形態が異なることを明らかにした。サスペンションのキャラクタリゼーションについては,申請時に計画したレオロジー測定及び小角X線散乱測定ではなく,目視観察による定性的な分散安定性の評価となったが,研究全体としては,サスペンション中に作り出すコロイド化学的な相互作用の違いによって高分子コンポジット中の固体粒子の分散・凝集を制御する本研究の狙いを支持する重要な結果が得られたことで,本研究はおおむね順調に進展しているとした。さらに,高分子コンポジットに関する本研究から派生して,吸着高分子との相互作用による高分子薄膜の脱濡れ抑制や複合高分子薄膜の相分離挙動を調べるために,末端官能基を有する高分子の化学吸着により表面修飾した固体基板の作製及びそのキャラクタリゼーションに取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は,固体粒子として密度の高いフュームドシリカ,コロイダルシリカ,カーボンブラックをポリスチレン(PS)溶液に分散させたサスペンション中で,粒子への高分子吸着や分散媒の種類によって,コロイド化学的な相互作用の違いを作り出し,それらサスペンションから溶媒をキャストして得たバルク・薄膜試料中での固体粒子の分散状態や凝集形態が異なることを示した。今後は,サスペンションについて,目視観察による定性的な分散安定性の評価だけでなく,光散乱あるいは小角X線散乱による粒子の凝集形態の評価と,サスペンションから溶媒が揮発してバルク・薄膜に至るまでの過程のモデル系として,サスペンションをシリコン基板上に滴下して,溶媒の揮発,即ち濃度の増加に伴う固体粒子の分散・凝集状態の変化を放射光X線による時分割での微小角入射の極小角・小角X線散乱測定により調べる。 これまでに用いた固体粒子はいずれも密度がマトリックス高分子より高いものばかりだったので,高分子との密度差がないPSラテックスを添加した系について,他の固体粒子を用いた系と同様の測定によりPSラテックスの分散・凝集状態を評価する。PSラテックスの凝集形態の観察には,X線だけではなく,重水素化によりコントラストを付与できる中性子をプローブとする極小角・小角散乱測定あるいはラテックスのサイズによっては光学顕微鏡を適宜併用する。 また,高分子コンポジットに関する本研究から派生して,高分子の物理・化学吸着により表面修飾した固体基板上での高分子薄膜の脱濡れ挙動や複合高分子薄膜の相分離挙動を微小角入射小角X線散乱測定や中性子反射率測定を利用して調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に申請した研究費は,主に消耗品費と旅費として使用する。 消耗品として,初年度には用いなかったポリスチレン(PS)ラテックス,固体粒子・基板に物理・化学吸着させる高分子試料,またマトリックス高分子として分子量が異なるPSを,年度の比較的早い時期に購入して試料作製を進める。また,薄膜試料を作製するための片面を鏡面研磨したシリコン基板,高分子溶液からゴミ等を除去するためのシリンジフィルター,溶媒等の化学試薬及び,サンプル瓶,シリンジ等の実験器具については,実験の進行に合わせて,適宜購入し補充する。 旅費は,実験旅費と成果発表のための学会参加旅費に大別される。放射光X線による小角散乱及び微小角入射小角散乱測定については大型放射光施設SPring-8(兵庫県佐用郡佐用町),またパルス中性子をプローブとする反射率測定については大強度陽子加速器計画J-PARC(茨城県那珂郡東海村)に,それぞれ年2回程度,研究協力者の大学院生とともに現地に赴き測定を実施する。さらに,高分子学会年次大会(5月,京都)及び高分子討論会(9月,金沢)に,研究協力者の大学院生とともに,参加して,本研究により得られた成果を発表する。
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