研究課題/領域番号 |
24550252
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
鳥飼 直也 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70300671)
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キーワード | 高分子コンポジット / カーボンブラック / 分散安定性 / 分散媒 / サスペンション / 凝集構造 / 高分子吸着 / 小角X線散乱 |
研究概要 |
3年計画の2年目にあたる平成25年度は,主に,カーボンブラック(CB)を分散質とする高分子コンポジット中のCBの分散・凝集状態と,高分子の吸着により表面修飾したシリコン基板上でのブロック共重合体薄膜のミクロ相分離構造を調べた。 高分子コンポジットについては,目視で観察されたサスペンションの分散安定性に応じて,溶媒キャストで得られるポリスチレン(PS)フィルム中のCBは,クロロホルムあるいはテトラヒドロフラン(THF)を分散媒に用いた場合には分散性が高いのに対して,トルエンの場合には分散性が低いことが判った。また,これまで目視観察による評価しか出来ていなかったサスペンションについて,比較的高い分散安定性を示すTHFを分散媒とする系に対して小角X線散乱(SAXS)測定を行い,サスペンションを試料とするSAXSの測定手順を確立したことで,今後,展開するサスペンション中での固体粒子の凝集構造を定量的に評価する準備を整えた。 ブロック共重合体薄膜のミクロ相分離構造については,固体基板上で高分子の吸着形態の違いを作り出すために, PSの化学吸着および物理吸着それぞれによりシリコン基板を表面修飾する手順を確立した。PSを化学吸着させる場合,末端のカルボニル基の反応と同時に熱処理によりPSの物理吸着が生じる問題が明らかになったため,PSが吸着した基板を,シリカ表面からのPSの脱着剤として強い作用を示すp-ジオキサン中で超音波処理することで物理吸着PSだけを基板から除去できることを見出した。それら高分子吸着基板上にブロック共重合体薄膜を作製し,薄膜中に形成されるラメラ構造へのPSの吸着形態の違いによる影響を微小角入射小角X線散乱で調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,無機・有機の固体粒子を分散質として高分子溶液に分散させたサスペンション中において,固体粒子に吸着した高分子による立体作用,非吸着高分子による枯渇作用等のコロイド化学的な相互作用を変えることで,それらサスペンションから溶媒が揮発してバルク・薄膜に至るまでの固体粒子の分散状態・凝集形態の違いを明らかにし,サスペンションを経て作り出される高分子コンポジットの物性を制御することを目的とする。研究計画の2年目は,主に,カーボンブラック(CB)を固体粒子として用いた系について,異なる分散媒のサスペンションから溶媒キャストで得たポリスチレン(PS)フィルム中におけるCBの分散状態・凝集構造を調べるとともに,初年度には目視観察による定性的な分散安定性の評価しか出来なかったサスペンションのキャラクタリゼーションについて,高い分散安定性を示すテトラヒドロフランを分散媒とする系に対し小角X線散乱(SAXS)を行い,サスペンションを試料とするSAXS測定の手順を確立し,今後のサスペンション中での固体粒子の凝集構造を調べる見通しが立てられたことで,本研究はおおむね順調に進展しているとした。 予定していたPSラテックスの高分子コンポジットについては,粒径がミクロンスケールであることにより,このラテックスの凝集構造をSAXSで観測するのは困難であると判断して,マトリックス分子として,PSの代わりに,ブロック共重合体を用いることで,PSラテックスの系内の分散状態によるミクロ相分離構造への影響を調べた。 高分子コンポジットに関する本研究から派生して,固体基板上の吸着高分子とのエントロピー的な相互作用による複合高分子薄膜の相分離構造への影響を調べるために,PSの化学吸着および物理吸着によりシリコン基板を表面修飾する方法を確立し,今後,研究展開する上での準備が整えられた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の2年目は,主にカーボンブラックを用いて,サスペンションを試料とする小角X線散乱(SAXS)の実験手順を確立したことで,サスペンション中における固体粒子の凝集構造を定量的に評価する見通しが立てられた。今後は,さらに異なる条件で調製したサスペンションについて,同様にSAXSによる固体粒子の凝集構造の評価を行い,高分子マトリックス中での凝集構造との定量的な比較を行う。また,初年度にフュームドシリカを用いて,高分子の吸着形態の違いが高分子マトリックス中での固体粒子の分散性に影響することを示唆する実験結果を得た。この点を明確にするためにブロック共重合体,ランダム共重合体等の吸着分子の構造により粒子表面での吸着形態の違いを作り出し,それら高分子が吸着したフュームドシリカの高分子マトリックス中での分散状態・凝集構造をSAXS及び透過型電子顕微鏡観察により調べる。さらに,サスペンションから溶媒が揮発してバルク・薄膜に至るまでの過程のモデル系として,サスペンションをシリコン基板上に滴下して,溶媒の揮発,即ち濃度の増加に伴う固体粒子の分散・凝集構造の変化を放射光X線による時分割での微小角入射小角X線散乱(GISAXS)により調べる。 高分子コンポジットに関する本研究から派生した,高分子の化学吸着および物理吸着により表面修飾した固体基板上でのブロック共重合体薄膜の相分離構造については,高分子吸着によりシリコン基板の表面修飾の手順を確立したので,その手順に従い異なる条件で作製したブロック共重合体薄膜のミクロ相分離構造をGISAXSや中性子反射率法を利用して調べ,高分子の吸着形態の違いによる影響を明らかにする。
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