研究課題/領域番号 |
24550253
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金森 主祥 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60452265)
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キーワード | エアロゲル / 多孔体 / 有機高分子 / 有機-無機ハイブリッド |
研究概要 |
本研究は、透明かつ高気孔率の多孔体であるエアロゲルの化学組成および作製法を拡張し、高い機械的特性や新しい物性・機能を持っ た有機高分子系エアロゲルの簡易的な合成法を開発し、基本的物性を調べることを目的としている。特に、超臨界乾燥を用いないエアロゲル状キセロゲルの開発を進め、高い断熱性能や機能性を示す新しい多孔性材料を創製することで工業的応用の可能性を高め、喫緊の環境・エネルギー問題へ貢献することを目指す。 平成25年度は、前年度までの継続検討として、比較的長い有機架橋部をもつビス(メチルジメトキシシリル)ポリプロピレンオキシド(BMPO)を前駆体として用い、新たに非水溶液ゾル-ゲル反応系を設計して検討を行った。BMPO単独から得られるゲルは柔らかすぎるため、乾燥段階においてより細かい細孔構造を保持することが難しい。このため、テトラメトキシシラン(TMOS)との共重合を行い、かつマイクロメートル領域の細孔(マクロ孔)を形成させることを目的とした。界面活性剤の存在下で不均一ながらマクロ孔が形成できることが分かり、柔軟なマクロ多孔性ゲルとなる可能性を見出した。 また、反応性有機部位としてビニル基をもつビニルトリメトキシシランからも水溶液ゾル-ゲル系において透明エアロゲルが得られることが分かり、出発組成と物性の関係や、表面ビニル基の利用可能性など系統的な検討を行っている。さらに、ビニルトリメトキシシランとビニルメチルジメトキシシランの3官能-2官能水溶液共重合系では、不透明柔軟多孔体(マシュマロゲル)が得られ、その表面ビニル基を用いた修飾処理を行うことにより、水はもちろん油などの有機液体をもはじく超撥油性の多孔体を得ることができた。このような多孔体における表面官能基の導入とその利用可能性は、有機高分子・樹脂との複合化や新たな機能性発現などにおいて重要な知見となりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機鎖を多く含む前駆体から得られる重合体は疎水性が高く、平成24年度に検討した水溶液ゾル-ゲル系では重合体の過度な相分離を防ぐことが難しいことが分かった。本年度は、この問題を解決するために、アルコキシシランとカルボン酸を用いる非水溶液系におけるゾル-ゲル系を検討した。このような非水溶液ゾル-ゲル系は過去に報告が少なく、その反応挙動や多孔性材料作製への可能性など不明な点が多い。本年度は基礎的な検討として、利用可能なアルコキシシランのスクリーニングを行い、有機架橋アルコキシシランであるBMPOから細孔構造の形成可否や得られるゲルの機械的特性を評価した。その結果、出発組成や添加物を変化させることにより細孔状態と機械的特性を一定の範囲内で制御できることが分かり、前駆体や共重合させるモノマーの分子構造と得られる多孔性ゲルの特性について様々な知見が得られた。 その他の試みとして、ビニル基などの反応性有機部位を導入した、水溶液系における透明エアロゲル合成の検討も継続して進めており、複数の前駆体において最適な反応条件が見いだされつつある。このようなエアロゲルも有機高分子・樹脂との共有結合に基づく複合化が可能で、機械的強度などの諸物性を広範に制御できる可能性がある。 また、3官能-2官能性アルコキシシランの水溶液共重合系においては、細孔表面のビニル基を利用した簡易な表面修飾が可能であることを新たに見出し、親液性・撥液性の性質が制御可能であることを示した。この技術も、上記のように有機高分子・樹脂などとの複合化や新たな機能性発現・制御において有用な知見となる。 これらのことから、次年度の本課題研究や、それ以降の発展的研究に繋がる多くの知見が得られたといえ、本研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、有機架橋部位をもつアルコキシシランを用いた透明エアロゲル作製の可能性を主に検討してきた。前駆体および得られるゲルの分子レベルの構造としては、炭素-炭素結合に基づく有機架橋部位が長すぎるとゲルの巨視的な物性としての機械的特性は柔らかくなりすぎる(ヤング率が過度に低下する)傾向にあり、乾燥時における収縮が大きくなることが分かった。つまり、ゾル-ゲル系における前駆体として架橋アルコキシシランを用いる限りは、むやみに有機部位を増やすことは好ましくない。平成26年度は、架橋系アルコキシシランを用いた非水溶液ゾル-ゲル系の検討を続け、さらに、テトラアルコキシシランや有機トリアルコキシシランとシラノール両末端前駆体の非水溶液共重合系などに拡張したい。特に、後者の系では、結合エネルギーのより低い炭素-炭素結合を導入することなく、シロキサン結合のみで柔軟な多孔性ゲルを作製できる可能性がある。このことは水溶液ゾル-ゲル系においても限定的に達成されているが、非水溶液ゾル-ゲル系を確立すれば細孔特性や機械的特性のより幅広い制御が可能であると考えている。 有機樹脂など他の物質・材料との複合化を考えるうえでは、多孔体の表面処理による適切な官能基や置換基の導入も重要である。この点については、ビニル基などの反応性官能基を有するアルコキシシラン前駆体からのエアロゲル合成研究を継続し、作製したエアロゲルを高効率で表面修飾できるような技術をさらに開発する必要がある。平成26年度は、このような表面処理に関する基礎的な検討や、技術開発も行いたいと考えている。 また、シロキサン結合を含まない有機高分子系でも、分子レベルの構造と架橋密度を適切に制御することで透明かつ高強度のエアロゲルを作製できる可能性は残る。この点についても有用な知見が得られるような基礎的な検討を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度までに、実験研究に係る消耗品費および論文投稿費や学会参加登録費などのその他経費はほぼ計画通りに使用した。特に消耗品については、実験に必要な試薬やガラス器具等を効率的に購入し、研究を進めることができた。また、得られた成果を公表するための論文投稿や学会発表なども効果的に行うことができた。 当初の予定よりも使用が少なくなっているのは、旅費と人件費である。旅費については外国旅費を年1回計上したが、国内開催の国際会議などに出席したため、平成24年度、25年度ともに出費を必要としなかった。また、当初の予定ではデータ整理のための人件費も計上したが、現在までに量の多いルーチン的なデータの蓄積を必要としなかったため、これも未使用である。 平成26年度も、消耗品の購入は多く必要であり、試薬やガラス器具などの購入が多くなる見込みである。また、海外で開催される学会にも出席を予定しているため、前年度までと比較して旅費の比率が多くなる見込みである。さらに、系統的な実験データの収集を行うため、人件費も使用する予定であり、その他論文投稿費用や学会参加登録費などの出費も前年度までと同様に発生する見込みである。 平成26年度は最終年度となるため、全ての必要な費目に関して効果的に出費できるよう、年度当初から慎重に計画を立てて実行したい。
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