研究課題/領域番号 |
24550254
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
町田 真二郎 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (20262032)
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キーワード | 温度応答性高分子 / 単一高分子鎖 / 単一分子分光 / 蛍光 / 相転移ダイナミクス |
研究概要 |
蛍光性分子であるペリレンテトラカルボン酸ジイミド(PTCDI)の両末端に臭化イソブチリル基を導入した誘導体を合成し、これを重合開始剤とする原子移動ラジカル重合により、一本鎖あたり1個の蛍光分子を導入した温度応答性高分子ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)を重合した。得られた高分子は、数平均分子量が26000、分散は1.4となり、リビング重合で得られ試料としてはやや多分散であった。1 wt%水溶液を用いた濁度測定より、試料は昇温時に32度、降温時に23 度で相転移し、大きなヒステリシスを示すことがわかった。また、室温における希薄水溶液の吸収スペクトルは、有機溶媒中のそれとは形状が異なり、一方蛍光スペクトルについては、有機溶媒中とほぼ同様の形状を示した。これらのことから、PTCDI部分の多くが水溶液中で会合し、一部が単量体として存在することが示唆された。またヒステリシスを示した理由は、相転移によりPTCDI部がスタッキングして会合体を形成し、それが解離するためには通常の相転移温度よりも低温にする必要があるためと考えられた。 昨年度合成した一本鎖あたりPTCDIを1分子含むポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)の場合、希薄水溶液中でも単量体を形成しなかった。今回得られた試料は、十分希薄にすることによって水溶液中でも単量体として存在することが示唆されたことから、単一分子分光法による単一鎖ダイナミクスの解析に用いることができることがわかった。そこで、有機溶媒中の希薄溶液からガラス基板上にキャストした乾燥試料を用いて単一分子分光を行ったところ、単一鎖中のPTCDIからの蛍光を観測することに成功した。現在、前述の試料に温水を滴下し、徐冷しながら単一鎖の相転移時における蛍光挙動の解析を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究の成果」欄に記載したように、一本鎖あたり1個の蛍光性部位を含む新たな温度応答性高分子を合成し、その水溶液の温度応答性および各温度での吸収・蛍光スペクトルを測定した。またその希薄溶液をキャストした基板上における乾燥状態での単一分子からの蛍光観測に成功した。しかし、計画書に記載した1本鎖の相転移ダイナミクスの観測にはまだ成功していない。この計画の遅れの理由は、昨年度に合成した高分子が期待通りの性質を示さなかったために分子設計をやり直したことが主な原因である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、高分子鎖末端の基板への固定化を試みていると同時に、基板上に固定化しない系を用いて降温過程中の単一鎖の相転移ダイナミクスの観測に挑戦中である。 具体的には、ガラス基板上に高分子鎖をごく希薄な濃度でキャストもしくはその片末端を固定化し、水中・温度制御下での単一分子分光を行う。その際の偏光度の時間変化を測定することにより、温度応答性高分子一本鎖の相転移ダイナミクスに関する知見を初めて得る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ほぼ当初計画通りに、ガラス器具や透析膜等の消耗品を購入し使用した。しかし、やや計画が遅れているため、当初予定よりも使用額がやや少なくなった。 今後は、試薬・ガラス器具・透析膜等の消耗品費および旅費(高分子討論会・長崎・26年9月)として予算を使用する予定である。
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