本研究の目的は、単糖類を原料として用い、剛直でありながら必要に応じて容易にモノマーへと分解可能な高分子を開発することである。具体的には(1)糖のジオール部位とケトンの反応による環状アセタールの合成を最適化し、 (2)糖とジケトンの重縮合によって縮環系(糖由来の環+重合によって生成する環状アセタール)を主鎖にもつ高分子を合成し、(3)その剛直さが強度や耐熱性に与える影響をしらべ、(4)環状アセタール部位の酸加水分解によってモノマーへと戻すこと、の4つを達成することを目指した。 前年度までの研究で、単糖の一種であるmyo-イノシトールを位置選択的にアルキル化することでテトラオールを合成し、そのアセタール化条件を最適化することができた(=サブテーマ(1))。これにもとづいて、ジケトンとの重縮合による剛直な縮環系およびスピロ骨格をもつ高分子を合成することができた(=サブテーマ(2))。また、得られた高分子が高い耐熱性(たとえばガラス転移点150度)を示すことも明らかにした(=サブテーマ(3))。 最終年度ではサブテーマ(4)、すなわち主鎖にアセタール骨格をもつ剛直高分子の酸加水分解について検討した。高分子に対して水の存在下、種々の酸を作用させたところ、速やかに加水分解が進行し、MALDI-TOF質量分析によって分子量の低下を観察することができた。また、IR分析によりケトンの吸収が増大したことからも、加水分解の進行が明らかになった。このような加水分解のみならず、モノケトン、たとえばシクロヘキサノンの存在下で高分子に対して酸を作用させた場合にも、速やかなアセタール交換反応の進行によって高分子主鎖が切断されることが明らかになった。 以上の研究遂行により、「剛直で耐熱性に優れ、しかも酸によって容易に分解可能な高分子を単糖類を原料に開発する」という当初の研究目的を達成することができた。
|