研究課題/領域番号 |
24550265
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪市立工業研究所 |
研究代表者 |
門多 丈治 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 環境技術研究部, 研究主任 (40416350)
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研究分担者 |
平野 寛 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 環境技術研究部, 研究室長 (10416349)
上利 泰幸 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 環境技術研究部, 研究部長 (70416288)
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キーワード | ポリ乳酸 / 精密合成 / 有機触媒 / プラスチック / 耐熱性 |
研究概要 |
我々は、酵素を模倣した高活性な新規有機触媒を開発し、分子量と化学構造を明確に制御した、“精密ポリ乳酸”の定量的合成を可能とした。従来、ポリ乳酸の物性研究には分子量分布の広いものが用いられていたため、真の性質や性能の理解に基づく材料設計がなされておらず、プラスチック材料として一般普及に至らない一因となっている。そこで、分子量、分岐構造、末端基をデザインした“精密ポリ乳酸”を合成し、構造と物性を明確にすることで、大きな市場ニーズの期待される接着剤、フィルム、成形材料に焦点を当て、ポリ乳酸製の高機能なプラスチック新素材の創出を目的としている。本年度は、昨年度に得られた様々な構造の精密ポリ乳酸の特異的な物性について重点的に検討を進めた。 1.分子量、分岐度と熱的性質の関連性: 多官能の開始剤を用い、モノマー/開始剤比を任意に設定することで、分子量数百から21万まで、直線状から8分岐までの精密多分岐ポリ乳酸を合成し、それらのガラス転移温度、融点、融解熱等の熱的性質を調べた結果、分子量が大きくなるにつれて耐熱性が向上し、また分岐度が大きくなるほど結晶化しなくなる傾向が見られた。 2.熱分解性メカニズムの考察: ポリ乳酸の熱分解メカニズムは、末端からの分解と、ポリマー鎖途中でのエステル分解が知られており、分子量や分岐構造、末端構造との関連が予想される。熱分解性を調べた結果、従来から知られている2つのメカニズムを明確に観測することができた。分岐度が大きいほど熱分解温度が低く、末端からの分解が観測され、末端からの分解を防ぐ末端修飾した場合には、より熱分解温度が高くなり、ポリマー途中のエステル分解が観測された。 これらの知見から、分岐度によって柔軟性を制御し、分子量、末端構造によって熱分解性を大幅に向上させることが可能となり、最終目標のプラスチック新素材の候補を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果は、分子量、分岐度、末端構造と、熱的性質、耐熱性および熱分解メカニズムに関する関連性を従来になく明確に観測し、プラスチック新素材に結びつく可能性のある制御法を見出したことであり、当初の期待を上回り、本研究事業の範囲で検討すべき事象がさらに増加した。得られた知見から、比較的早期に高付加価値プラスチック新素材に直結する可能性が大きく、工業材料開発の方向へ順調に進行している。これらが当初の予想以上に進展した分、計画の一つに挙げていたブロック共重合体についてはまだ検討を開始したところであり、次年度に重点的に検討していきたい。得られた成果については積極的に学会発表で公表し、また接着性に関して得られた知見については企業への技術移転に発展し特許出願に至っている。論文執筆も現時点で2報掲載されている。さらに本研究成果について、本年度6月に日本接着学会進歩賞を受賞した。また、8件の学会発表(内国際学会1件)、4件の依頼講演を受け、研究分野での評価が高まりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度計画で第一目標であった分子量、分岐度、末端構造と熱的性質、耐熱性および熱分解メカニズムの関連性を明確にすることができ、プラスチック新素材へ繋がる設計手法、特に、柔軟性、耐熱分解性の向上については、従来のポリ乳酸とは全く異なる性質を発現しうることを見出した。 次年度では、これらに加えて、両末端構造の制御および、ブロック長さの揃ったブロック共重合体の精密合成を重点的に検討したい。 1.ブロック共重合体化: ポリ乳酸は剛直なポリマーで、バルクでは硬くて脆い。そこで、デザインされた精密ポリ乳酸に、ラクチド、ラクトン、ラクタム等の長鎖アルキルを有するモノマーを共重合させることで、任意の鎖長の剛直鎖と柔軟鎖から成る精密ブロック共重合体を合成すれば、ポリ乳酸エラストマーが得られると考えられる。従来から柔軟鎖の導入は試みられているが、鎖長の制御には至っておらず、精密化による飛躍的な性能向上が期待できる。また、ポリ乳酸は新油性であるから、エチレングリコール等の親水性ポリマーと共重合することで、両親媒性の精密ブロック共重合体が得られる。界面活性が発現すれば、エマルジョン化やドラッグデリバリー等への展開も視野に入る。 2.精密ポリ乳酸製プラスチック新素材の開発: 様々にデザインした精密ポリ乳酸の合成が可能となり、その新しい性質が明らかになるにつれて、具体的な工業製品に直結する成果が出つつある。最終年度では、柔軟性、強靭性、高耐熱性等の要求性能の発現に適した精密ポリ乳酸の最適化を試み、様々な工業材料の設計指針を模索していく。現時点での有望な検討課題として、接着剤、フィルム材料、成形材料、添加剤を考えている。接着剤については本研究課題で特許出願し、論文も1報掲載されており、もう一息の発展で製品化に繋がる段階にある。フィルム材料についても、特許化を検討中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進行に従い、本事業の範囲で検討すべき課題が増えてきたため、最終年度に必要な試薬類、ガラス器具等の購入や、予定している国際学会発表、論文発表等の費用が、計画当初より若干多く必要となることが予想される。そのため研究開始前に予定していた実験環境より簡易で汎用性の高い方法を適用することで経費を効率的に節約し、次年度必要分として繰越額を残した。 本年度の研究成果は、具体的な工業化への発展が期待され、本研究事業の範囲で検討すべき事象も予想以上に増加した状況にある。最終年度には工業化へ向けた検討を予定しており、合成、物性評価に当初の予定以上の原料、研究物品の購入が必要になると予測される。さらに昨年度に引き続き依頼講演を受けており、また国際学会への参加を予定しており、加えてそれらの成果の論文投稿費も必要になる。以上の状況から、本年度節約した繰り越し分を、物品費、旅費等の必要増額分に対応させることで、効率的な研究費の使用が可能と考えている。
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