研究課題/領域番号 |
24560001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
近藤 憲治 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (50360946)
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研究分担者 |
海住 英生 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (70396323)
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キーワード | スピントロニクス / 物性理論 / 第一原理計算 / 磁性 / スピン輸送 |
研究概要 |
平成25年度は、スピン量子十字構造素子(SQCS素子)の電極部にトポロジカル絶縁体と正常金属を用い、接合部に酸化物を挟んだ場合におけるトポロジカル絶縁体から正常金属へのスピン注入に関して理論的な検討を行った。 トポロジカル絶縁体には、磁化mを有する磁性絶縁体を蒸着してあるものとして、この磁化mの大きさや垂線からの傾きに応じて、トポロジカル絶縁体のmassless Dirac 電子のエネルギー分散が変化することによるスピンコンダクタンスの変化を酸化物絶縁体の幅を変化させて計算を行った。 その結果、垂線に対する磁化の極角θと方位角φに対して、スピンコンダクタンスは、非常に敏感であることが分かった。スピンコンダクタンスは極角θと方位角φに対して、それぞれ、90度を中心に対称な形を取った。φを0度に固定したときは、θ=90度の時に最大のコンダクタンスを取り、またθを90度に固定した場合は、φ=90度の時に最小値を取ることもわかった。さらにバリアの幅dに関しては、幅が増加するにつれ、緩やかなコンダクタンスの現象が見られた。これは考察したバリア幅がフェルミ波長よりかなり狭い領域を考察した結果である。 一方、今年度は、基礎的な部分の研究も行った。電子デバイスなどにおいて、一般的に輸送特性を計算する場合、電極は2次元や3次元の自由電子と考えて、自由電子のフェルミレベルでの状態密度のみを使用して計算を行う。しかしながら、実際の金属電極は、自由電子ではなく、クーロン相互作用を行っている電子の集合である。そこで、電子相関をGW近似で取り込んで、2次元電極での準粒子のエネルギー分散を求めた。2次元金属電極における自由電子の分散とGW近似で計算された準粒子の分散を比較し、自由電子近似の妥当性を考察した。その結果、フェルミ面近傍に限って自由電子近似は妥当であることを精度の高い計算で改めて証明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、位相不変量をもつスピン現象の理論を基礎から研究し、基礎理論をデバイス設計に向く形に発展させ、トポロジカル絶縁体や内因性スピンホール効果をデバイスに利用する方法を構築することが研究目的である。今年度は、新型の素子であるスピン量子十字構造素子(SQCS素子)において、片方の電極に、奇パリティのZ2位相不変量を有するトポロジカル絶縁体を使用し、接合部に絶縁体を挟んでバリア層とした場合に、もう一方の正常金属にどれほどのスピン注入が出来うるかを考察した。その結果、この系におけるスピンコンダクタンスを定量的に計算出来たことは、位相不変量をもつスピン現象の理論をデバイス設計に利用する一歩になったと考えている。 一方で、これらの研究の過程では、輸送特性を計算する際に、自由電子での状態密度を使用して、導電率を計算しても良いということが通説になっている。その事柄に対して、実際の金属電極の電子は、自由電子ではなく、お互いにクーロン力によって相互作用している多体系なので、この暗々裏に仮定している仮定については、検証する必要性を感じた。そこで、自由電子にクーロン相互作用を取り入れた場合の電子の分散を精度の高いGW近似という計算によって求めた。その結果、フェルミ面近傍に限って自由電子近似は妥当であることを改めて証明できたことは、今後、位相不変量をもつスピン現象の理論をデバイス応用する際に、計算の正当性を保証するという意味で重要であること考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、電極にトポロジカル絶縁体を用いたSQCS素子のスピン伝導の理論計算を行ったが、その際に界面でスピンフリップはないと仮定したが、界面では、ポテンシャルの段差があるため、電場が生じている可能性がある。したがって、運動している電子にとっては、仮想磁場が存在していると思われる。それゆえに、界面でのスピンフリップも考慮する必要があるので、界面でのスピンフリップを考慮した、電極にトポロジカル絶縁体を用いたSQCS素子のスピン伝導の理論計算を行う予定である。 また、Model Hamiltonianで電極を強磁性体にしたときに生じる異常ホール効果を利用した場合のスピンコンダクタンスの計算を行う。その際に不純物の影響による内因性と外因性のクロスオーバーが電流・電圧特性にどのように現れるかを計算する。また背後にあるベリー位相の位相差が、伝導特性にどのように現れるのかを検討する。 さらに、近年、Rashba効果ならびにDresselhaus効果などの非可換ゲージ場を用いる事によって、磁石にスピントルクを生じさせることが出来ることがわかってきた、いわゆるSpin Orbit Torque (SOT)である。したがって、SQCS素子の電極に接合部に平行に電流を流すことによって、接合部のスピンにトルクを働かせることが可能である。その際に、スピンフリップを生じさせるのに必要な電流の大きさの見積もりや想定される書き込み速度などの計算を行う予定である。 基礎的な観点からは、最終年度は、トポロジカル絶縁体の理論をかなり熟知した頃になっているので、このエキゾチックな物質のさらなる新しい物性が無いか探索し、発見出来れば、それをデバイスの設計に生かす。また、既に昔から知られているスピン現象の理論を初めから見直し、潜んでいる可能性のある位相不変量の抽出を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度未使用額については、当初、HPCコンピュータの購入を意図していたが、現在所有しているものより、数段上のHPCコンピュータを購入するには、IntelのCPUの開発を平成26年度まで待った方が、安価で高性能なものを購入できることが判明したためである。 平成25年度未使用額については、平成26年度に購入予定のHPCコンピュータを当初予定したものより数段グレードの高いものにするために使用する予定である。
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