構造複雑系物質のひとつの典型である準結晶と関連近似結晶の純良単結晶育成を基本として、それらの原子構造を電子密度レベルで解明し、非周期長距離秩序形成のメカニズムと構造安定性の起源について知見を得ることを目的に研究を行った。特に、本研究は構造解析の進んでいない正10角形準結晶の構造解明を主目的とした。Al-Cu-Rh正10角形準結晶を3元系正10角形準結晶の構造解析のプロトタイプと位置づけて、純良単結晶育成と評価、X線回折実験による強度測定を行い、5次元構造解析のための構造モデルの構築と構造精密化を、昨年度にひきつづき実施した。従来、Al系正10角形準結晶の構造は、直径2nmのクラスターが準格子の頂点に配列した構造と考えられてきた。そして、直径2nmの原子クラスターとして10回対称をもつモデルと鏡映対称をもつモデルは別々に考えられてきた。Al-Cu-Rh正10角形準結晶では10回対称と映対称のクラスターを両方含む構造であることが明らかとなったため、構造解析にあたっては、それらを同時に取り扱え、かつクラスター密度の異なる5次元構造モデルを評価検討した。この構造モデルは周期の異なる他のAl系正10角形準結晶の構造解析にも用いることのできる基本モデルとして重要である。さらに本年度は、Al-Pd-Ru系近似結晶のε16相の構造解析に成功し、擬マッカイクラスターを構造単位とした詳細構造を明らかにすることができた。約1.6nm周期をもつAl系正10角形準結晶のみならず正20面体準結晶との関連においてε16相の詳細構造の解明は重要な役割を果たすと考えられる。研究期間全体を通じて実施した研究の成果として、Zn-Mg-Dy正10角形準結晶の乱れた平均構造の構造解析に成功した点は、とくに重要な意義をもつ。
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