本研究では電子スピン共鳴(ESR)法を、イオンゲルを用いた低電圧駆動有機トランジスタに適用し、素子動作中のESR観測によるミクロ特性評価を進めながら、特に、これまでESR法により研究されてこなかった、高電荷密度状態での素子動作機構と素子劣化機構の解明を微視的な観点で行った。 本年度は、イオンゲルを用いた高分子及び低分子薄膜トランジスタを作製し、ESR研究を進めた。高移動度を示す立体規則性ポリヘキシルチオフェン(RR-P3HT)とペンタセン、低移動度を示す立体不規則性P3HT(RRa-P3HT)を用いた。p型特性および両極性特性を示す素子構造を作製して研究を進めた。その他、単層グラフェンも用いて研究を行った。電場誘起ESR観測を行い、蓄積電荷キャリアの電子状態を研究した。 有機材料における電荷キャリアの電子状態(スピン状態やキャリア間磁気相互作用)をゲート電圧の関数として詳細に明らかにした。RR-P3HTでは磁気相互作用の次元が電荷密度増加と共に0次元から2次元へ変化する現象が観測された。一方、ペンタセンやRRa-P3HTでは2次元磁気相互作用は観測されず、3次元的な磁気相互作用となった。この違いは分子集合体構造の違いに由来すると考えられ、ラメラ構造を形成したRR-P3HTの場合は、側鎖が電荷蓄積層間のスペーサーの役割を果たしていると考えられる。また、いずれの材料でも高電荷密度下において電荷のスピン状態が非磁性化し、特に、ペンタセンやRRa-P3HTでは完全な非磁性電荷状態が実現した。また、ペンタセンにおける両極性電荷のスピン観測にも成功した。 単層グラフェントランジスタでは明瞭な電場誘起ESR信号の観測に成功し、そのESR信号の異方性も研究した。 以上の研究成果については、学会、研究会、国際会議等の招待講演等で報告し、学術論文に投稿準備中である。
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