研究課題/領域番号 |
24560006
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
酒井 正俊 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60332219)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強相関エレクトロニクス / 分子性固体 / 強相関電子系 / 表面・界面物性 / 電界効果トランジスタ / 光物性 |
研究概要 |
本研究では、強相関有機単結晶を用いた電界効果トランジスタ(FET)構造を作製する新しい技術を確立し、有機強相関材料の金属‐絶縁体転移を利用した新原理有機デバイスの動作を実証することを目的として研究を行っている。平成24年度は、研究計画通りに、結晶成長方法、およびデバイスの作製方法の検討と、電界効果トランジスタ動作の実証を行った。材料として、室温近傍に金属‐絶縁体転移点がある(BEDT-TTF)2PF6を選択した。まず第一に、高品質でごく薄い有機強相関物質の単結晶成長を行った。FET構造の構築に適した結晶を成長させるために、従来から広く利用されている電解結晶成長法に独自の工夫を加えた。また、溶媒の精製を行い、高品質な結晶が得られる収率を高めることに成功した。得られた結晶をFET構造に組み込むにあたり、基板の熱膨張に起因する圧力効果の抑制と、部分的な電流の集中による結晶の損傷の抑制のために、試行錯誤を伴う様々な工夫をこらし、FET構造を作製した。得られた結晶のコンダクタンスの温度依存性から、金属‐絶縁体転移を確認した。作製したFETはゲート電界の印加に対して、p型のトランジスタ特性に相当するコンダクタンスの変調を示した。金属‐絶縁体転移温度の前後で、ゲート電界によるコンダクタンスの変調度は変化し、転移温度において明確なピークを持つ温度依存性を示した。このような温度依存性について考察を行い、この温度依存性が、ゲート電界による金属‐絶縁体転移点のシフトに起因すると考えれば、現象をよく説明できることを明らかにした。このような機構は、IBMのNewnsにより提唱された相転移トランジスタの原理と同一である。今後、デバイスのデザインや作製法を改良し、動特性の計測によって高速応答性を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請調書の計画のとおり結晶成長に改良を加えた結果、実用トランジスタとしては十分ではないものの、金属‐絶縁体転移デバイスの原理を検証するのに十分な品質と大きさを持つ単結晶を成長させることに成功した。また、熱膨張の影響のないゲート電極の作製については、従来使用されてきたSi基板と酸化膜ではなく、金属基板の表面研磨とポリマーのコーティングによって実現した。これによって、コンタクト電極の作製に自由度が確保された。コンタクト電極については電流の集中よる結晶の劣化とコンタクト自身の劣化を防ぐために試行錯誤を行い、その過程で多くの時間を費やすことにはなったが、これをおろそかにしては後々デバイスの再現性に悩まされることになったと思われる。そういう意味では、費やす価値のある時間であったと思うし、24年度の計画通りにトランジスタ動作を検証する段階まで研究を推進することができたので、計画に遅れは生じていないと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まず第一に、現段階では単結晶の品質が本研究の生命線である。このことから、単結晶の安定な成長法の確立が急務である。変調度を確保して、動特性を明確に計測するためにも、薄く、高品質な単結晶を成長させる必要がある。FET構造を安定的に構築することができるように構造に改良を加えるとともに、金属‐絶縁体転移温度近傍での応答速度の計測をルーチン化するための計測システムを構築する。必要なアンプ類は昨年度に購入済みであるので、今年度はそれを計測システムに組み込んで、半自動的な計測を行うことのできるプログラミングにも取り組んでいく予定である。同時に、既存のインピーダンスメーターやネットワークアナライザを用いて、金属状態における高周波応答特性を検証する。この測定は、有機導体の金属状態が実際にどの程度の高速応答に耐えうるか、その限界を規定するための重要な要素である。ターゲットとしては、(BEDT-TTF)2PF6に限らず、他の様々な強相関有機結晶を用いる。材料の幅を拡げた結果、チャージギャップが小さな材料を用いた場合に両極性特性を示す可能性がある。両極性特性を示す材料を用いれば、そのまま3端子のCMOS-likeインバータの作製と高速動作検証を行っていくこともできる。このようにして、「有機デバイスは動作速度が遅い」という常識を覆す新デバイス原理の確立を目指していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用を計測用モジュールの購入や電極パターンの改良に充てていく。つまり、今年度は、電気計測の効率化、高度化を重要視した投資を行っていく。現状では高速応答測定がルーチン化されておらず、質の高い結晶でデバイスを作製しても、すぐに高速応答の測定をする測定系が整備されていない。この状況を解消するために、早期に高インピーダンスのデバイスの高速測定計測系を立ち上げてゆく。これによって担当する人が入れ替わる度に測定系を組みなおすような非効率も格段に減らすことができる。現状では単結晶の成長技術を改善しながら、質の高い単結晶を選び出してデバイス構造に組み込むしかないが、それを効率化することなくして、研究の進展も、実用化に近い成果も望めない。場合によっては、結晶成長を自前だけで行う方針を緩めて、単結晶の成長を専門家に依頼することも考えるべきかと思っている。その分の時間と人員及び研究費を、新原理の高速応答計測に投入するべきかもしれない。ただ、デバイスの根本的な改善を目指す段階に達した時には、自前での単結晶量産は不可欠となるので、単結晶の成長技術の改善に対する投資も引き続き行っていく。
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