研究課題/領域番号 |
24560006
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
酒井 正俊 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60332219)
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キーワード | 強相関エレクトロニクス / 分子性固体 / 強相関電子 / 表面・界面物性 / 電界効果トランジスタ / 光物性 / 有機トランジスタ |
研究概要 |
本研究は、強相関有機結晶を用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製するための技術を開発し、有機強相関材料の金属‐絶縁体転移を動作原理とする新原理有機デバイスの動作を検証することを目的とする。平成25年度は、まず第一に(BEDT-TTF)2PF6と(BEDT-TTF)(TCNQ)の結晶成長方法を改善し、FET構造試料の作製方法も改善した。(BEDT-TTF)2PF6について、高品質でごく薄い単結晶の収率を上げるため、溶媒の精製および結晶成長中の温度制御を厳密に行うなど、結晶成長に独自の工夫を加えることによって有効な結晶の収率を向上させた。(BEDT-TTF)(TCNQ)については、3種類存在する多形のうち、三斜晶結晶の収率を向上するためにさまざまな工夫を行った。試行錯誤の結果、温度と溶媒の乾燥方法の改善が最も有効であった。結果として、格子構造を反映した外形をもち、実験に必要な大きさを持つ単結晶の収率を大幅に改善した。FET特性測定系についても改良を加えて、温度依存性の測定を安定化した。その結果として、平成24年度に観測されたゲート電界誘起金属‐絶縁体転移の再現に成功した。ゲート電界誘起金属‐絶縁体転移は、転移温度の低温側へのシフトで説明される。しかも、従来型の電界効果トランジスタの動作を元に見積もられるよりも2~3桁大きなコンダクタンス変化が誘起されていることが明らかとなった。このことから、ゲート電界によるキャリアの注入によって、FETのチャネル領域よりも広い領域で、電荷秩序の融解が誘起されていると考えられる。この成果について論文を執筆中である。さらに、(BEDT-TTF)(TCNQ)を用いた共同研究によって光電流の実験に着手し、実験データが得られる段階に達した。今後は共同研究を動特性やテラヘルツ領域の測定にも広げていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結晶成長の改良に改良を加えた結果、金属‐絶縁体転移が観測できる品質の結晶を得られるようになったものの、その結晶を電界効果トランジスタ構造に作りこむのは、依然として困難で、ノウハウを絞り込むのに長時間を費やしている。また、研究室の移転(今秋に再移転)などもあり、実験機器の移転、再構築などに多大な時間を費やすことを強いられたため、実験の進行に支障が出ている。基本的な測定を自動化する計画も少し遅れている。ただし、光学的な手法を用いた共同研究は予定よりも早い段階で実施し始め、結果も出るようになった。平成24年度の終盤に共同研究で得られた低温域の結果が論文として受理された。
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今後の研究の推進方策 |
電界効果トランジスタ構造の作りこみに関するノウハウについて、より汎用性がある方法を採用しながら、絞り込んでいきたい。高品質で薄い結晶の作製と、トランジスタ構造の改善は、この研究で最後まで問題になるところであるので、着実に改善を行っていく。また、基本的な測定の半自動化を推進して、高速応答測定などのより高度な測定へ注力するようにしたい。そのための機器とプログラミング言語は平成25年度の研究費によって購入済みである。高周波応答の測定について、新規に導入されたインピーダンスアナライザを活用して、高周波応答を検証していく。光学的な共同研究についても、これまでよりも広く推進する。具体的にはPump-probe系を用いた時間領域の測定、テラヘルツ波を用いた金属‐絶縁体転移速度の検証を推進したい。テラヘルツの実験については、新しい共同研究者を確保することができた。
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