最終年では、BiFeO3(BFO)において強い強誘電性を保ちながら磁化を大きくする方法を探るため密度汎関数を用いた第1原理計算を行った。 多数と少数t2gとeg軌道の占有のされ方によりc/a比、原子変位、自発分極に影響を与える、正方晶のFe3+の低スピンと中間スピン状態を確認できた。その要点としては、Feの低スピン状態の1つだけが正方性を抑えるが、中間スピンFeの構造は高スピンFeと同様のc/aを保持した。他方、中間(低)スピンFe3+でドープされたBFOの磁気モーメントは2(4)μB/supercellまで増加した。 静水圧下では、正方晶BFOのFe3+安定状態は高スピンから対電子を持つ低スピンに変わるが、不対電子を持つFe3+の低スピンと中間スピン状態を安定化できなかった。正方晶BFOの磁化増大は外部静水圧による単位胞堆積の操作により可能であると考えられる。 Fe3+スピン配置の安定性に影響を与える体積の同様な変化は、2軸の延伸と圧縮応力によって引き起こすことができる。本計算では、正方晶BFOで延伸(圧縮)応力は不対(対)電子を有するFe3+の中間状態を安定化できる。 単斜晶supercellの大小のc/aのある超格子を安定化する可能性を解析した。計算の結果、正方性の分布したsupercellは正方晶よりも安定であり続ける。 3年間の研究で、擬正方晶や擬菱面体晶対称の共存と同様に正方晶対称の多くの準安定相が存在しており、Feスピンは外部強制により指示されたように変わりうる。BFOの大きな分極はこのような通常でない構造でも保持され、磁気電気結合と同様に磁化は増大できた。今後の研究として、BFOの金属―絶縁体相転移の挙動を制御する(バンドギャップチューニング)ための知見を得ることに集中し、これができれば太陽エネルギー変換への応用も適切なものとなるであろう。
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