研究課題/領域番号 |
24560011
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
市田 秀樹 大阪大学, 産学連携本部, 助教 (50379129)
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キーワード | 励起子 / ポラリトン / 時間分解発光スペクトル |
研究概要 |
本研究の目的は、半導体結晶中での励起子と光子の結合状態である励起子-ポラリトン状態に着目し、励起子-ポラリトン状態における下枝ポラリトンの光子性の強い部分(Photon-like Polariton)を経由した発光バンド(励起子-励起子散乱発光など)の発光減衰時間の意味を考えるものである。励起子-励起子散乱発光においては、n=1準位にある2つの励起子が弾性衝突することによって、1つの励起子をn=2以上の高次の励起子準位へと励起させ、もう一つの励起子をn=1の励起子準位から弾性散乱によって失われたエネルギー差だけ低いPhoton-like Polaritonへと散乱された後に発光が生じる。Photon-like Polaritonを経由した発光バンドの発光寿命は、その光子性の強さから非常に早い減衰時間を示すと考えられるが、その関係性はこれまでに明らかになっていない。そこで本研究では、光カーゲート分光法を用いて、励起子-励起子散乱発光の時間分解発光スペクトルを測定し、(1)発光に関与するポラリトンの光子性の特徴が発光減衰時間にあたえる影響の解明すること、(2)励起子-励起子散乱発光を用いた光デバイスへの知見を得ることを目指している。 平成25年度においては、励起子-励起子散乱発光が明確に観測されるワイドギャップ半導体であるZnO薄膜における発光減衰時間の測定、および、その膜厚依存性の測定を行い、試料の膜厚を薄くすることによって発光減衰時間が短くなるという、これまでに無い知見をH24年度において観測していたので、そこに着目してさらなる研究を行い、励起子-ポラリトン状態における下枝ポラリトンの光子性や膜厚による励起子と光の結合強度の観点からの考察をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度においては、ワイドギャップ半導体であるZnO薄膜において、励起子-励起子散乱発光の発光減衰時間の測定、および、その膜厚依存性の測定を行い、試料の膜厚を薄くすることによって発光減衰時間が短くなるという平成24年度に得られた結果についてさらなる詳細についての検討を行った。 当初計画で予定していた、「試料膜厚依存性,および,試料表表面及び裏面からの励起子-励起子散乱発光の時間分解発光スペクトルを測定し、Photon-like Polaritonの試料表面までの到達時間を明らかにし、計算から得られるPhoton-like Polaritonの群速度と比較する」という点においては、膜厚依存性に着目することが本研究を遂行する上で重要であると考え、その点にのみ着目し、Photon-like Polaritonの薄膜内への閉じ込め効果による影響について考察を行った。しかし、定量的な説明が出来ておらず、まだまだ解明すべき問題が残っている。しかしながら、Photon-like Polaritonの発光減衰時間が膜厚を薄くすることによって短くなるという成果をすでに得ており、その詳細を解明すべく研究を進めている。上記の理由から、平成26年度の達成度としては、「(2)おおむね順調に発展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度においては、研究期間最終年度ということから、特に本研究で新たに観測された、励起子ー励起子散乱の時間分解発光スペクトルから得られたPhoton-like Polaritonの発光寿命の膜厚依存性を中心にその物理的な意味を含めながら、本研究成果をまとめて行く。その中で、新たな光デバイスへの可能性の知見を得ることを目指していく。この励起子ー励起子散乱発光によって生成されたPhoton-like Polaritonの発光寿命の膜厚依存性に関しては、励起子が薄膜内に閉じ込められることによって、光子との結合強度が変化し、その寿命に影響を与えてることがこれまでに報告されていることから、測定対象資料の膜厚を励起子ー励起子散乱の時間分解発光スペクトルが観測出来る範囲で限りなく薄くすることで、Photon-like Polaritonの発光減衰時間と膜厚依存性の関係を明らかにしていくことを目指す。Photon-like Polaritonの発光寿命の膜厚依存性の解明においては、現在時間分解発光スペクトルの計測において用いている光カーゲート法の時間分解能の向上と計測効率の向上が必要となる。時間分解能の向上においては、現在用いている光源のシステム的な性能だけでは短パルスかが不可能なので、非線形光学効果を取り入れた形での短パルス化が出来ないかを検討する。また、膜厚が薄くなることとによるシグナルの微弱化に対する対応も必要なため、システム全体として、測定試料の薄膜化に対応出来るかがポイントであるが、これまでの経験を元に改良を重ねていく。得られた計測結果に関しては、理論的な考察を含めて、Photon-like Polaritonの発光寿命の膜厚依存性の解明および光デバイスへの応用についての検討を行いつつ、本研究の成果をまとめて行く。
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