研究課題
前年度に研究が大きく進展した固有ジョセフソン接合系の高次スイッチ事象における巨視的量子トンネル的挙動の起源解明に向けて、6個の接合しか含まない微小固有ジョセフソン接合素子を作製し、マイクロ波照射に伴う共鳴スイッチ現象の実験を続けた。第2スイッチと第3スイッチで各々異なる振舞いを示す共鳴ダブルピーク構造を観測し、第2スイッチで観測された共鳴現象が巨視的量子トンネル状態で期待される離散化量子準位の形成を強く示唆する結果であることを確認した。また、Fistulらが提唱した単一接合モデルに基づいた従来理論では実験結果を完全には再現できないことから固有ジョセフソン接合系に特有な接合間相互作用の寄与を見出した。さらに、マイクロ波照射と共に各接合が同時にスイッチしやすくなる振舞いを観測し、接合間の電磁的結合が従来考えられてきた電磁誘導的結合よりもむしろ静電容量的結合を支持する結果を得た。以上の研究成果を基に現在、投稿論文の執筆準備中である。一方、当初、計画していた面間トンネルスペクトロスコピーについては、Bi系固有ジョセフソン接合素子の実験で懸念されてきた自己発熱効果の低減に必要な短パルス測定法について再度検討を行った。その結果、従来用いてきた差動増幅器を外し4Ch入力のデジタルオシロスコープを用いると数マイクロ秒の短パルス化が達成できることを見出した。また、市販の10倍プローブと同等な回路の挿入もパルスの立ち上がり特性向上に有効なことを見出した。予定していた反強磁性秩序組成のY置換Bi2212の単結晶育成にも成功し、自己発熱効果の低減に有効なもう一つの方法である固有接合素子の接合数低減技術についても目途が立ったことから、ようやく本格的な面間トンネルスペクトロスコピー実験を開始できる段階に到達した。
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