研究課題/領域番号 |
24560020
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
梅津 郁朗 甲南大学, 理工学部, 教授 (30203582)
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研究分担者 |
稲田 貢 関西大学, 工学部, 准教授 (00330407)
吉田 岳人 阿南工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (20370033)
香野 淳 福岡大学, 理学部, 教授 (30284160)
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キーワード | 過飽和ドープ / シリコン / 太陽電池 / レーザープロセッシング / 非平衡プロセス |
研究概要 |
当該年度の実施計画は主に物性評価であり、シリコンへの硫黄の過飽和ドープ試料に関しては予定どおり光および電気的物性評価を行った。また希薄磁性半導体の作製を目的として、シリコンに対するマンガンの過飽和ドーピングプロセスの研究を行った。当該年度は断面TEMの観察により、構造解析が進展した。前年までマンガンやチタンの過飽和ドーピングにおいてSIMS測定で表面析出が少ない作成条件を見いだした。しかし、これらの試料に対して断面TEM観察から深さに垂直な方向への偏析(セルラーブレークダウン)の発生が確認され、均一なドーピングが行われていない可能性が判明した。この問題に対して、レーザー重複照射回数を増加またはドーズ量を低下させ、レーザー溶融の条件によってセルラーブレークダウンの領域を表面近傍に縮小させることが可能であることを示した。 硫黄はマンガンやチタンに比べると、レーザー照射条件に鈍感で表面析出が少なく、結晶性も良好であることが確認され、中間バンドの形成に対する優位性が示された。照射フルーエンスによる結晶性と不純物分布を測定したところ、1.0~1.2J/cm^-2程度で最も良好な結果が得られた。この試料に対して光吸収、電気伝導度、光電気伝導度の測定を行った。さらにこの試料を熱アニーリングしレーザー溶融した場合との比較を行った。 中赤外領域での光吸収スペクトルは照射フルーエンスや熱アニールによって変化し、0.4eV帯と0.6eV帯の光吸収の存在を見いだした。0.4eV帯とシリコンの裾吸収帯はイオン打ち込み時の欠陥生成が関与していると考えられる。前年度までに硫黄ドープ試料の光電気伝導が光吸収スペクトルと異なる事を報告しているが、これらの結果は、光電気伝導が中赤外吸収帯よりも裾吸収帯での効率が高い可能性があることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の予定は1)不純物濃度を変化させた試料とPLM後に熱アニールを施した試料に対する、中赤外光吸収スペクトルの測定、2)電気伝導特性の温度依存性の測定、3)電気伝導に対する光照射の影響の測定等であった。中赤外光吸収帯と電気的特性の相関は、現時点で必ずしも明らかになってはいないが、実験データの蓄積は順調に行われ、それに対する議論も行われている。ただし不純物及びその周辺のシリコンの局所構造に関する議論は予定どおりには進んでいない。その代わりに断面TEMを用いた結晶構造解析で進展が得られた。以上より全体としてはおおむね順調と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には前年までの研究を継続すると共に総合的なまとめを行う。遅れ気味である不純物及びその周辺のシリコンの局所構造に関する議論にも力を入れる。年度後半ではこれまでの結果をまとめ、非平衡的な固液界面の急速冷却過程、非平衡的不純物拡散過程、過飽和状態での不純物の配置、準安定構造と赤外光吸収の相関、中間バンドの形成の可能性、太陽電池材料としての可能性、光機能性材料としての可能性、等を研究分担者・研究協力者との議論を通して総合的に検討する。また高いフルーエンスのもとで生じる、パルスレーザーアブレーション過程との関連に関しても議論を始める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画していた分析の内、電子顕微鏡による分析が進行し、他の外部発注分析よりもこちらを優先させた。従って当初予定した分析が後回しになり次年度使用額が生じた。 上記の理由により、この差額は主として次年度の分析費として使用する予定である。
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