研究課題/領域番号 |
24560021
|
研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
大井 修一 独立行政法人物質・材料研究機構, 超伝導物性ユニット, 主任研究員 (10354292)
|
キーワード | 高温超伝導薄膜 / ナノ加工 / 局所陽極酸化 / 渦糸 / 固有ジョセフソン接合 / 電流注入ドーピング |
研究概要 |
高温超伝導体単結晶、特にBi2Sr2CaCu2O8+y(Bi2212)単結晶の劈開性を利用した高品質薄膜の作製および試料ダメージを極力抑えたナノスケール加工を可能にすることで、ナノ構造をもつ高温超伝導体における新規物性・機能の発現を目指し、昨年に引き続き、(1)局所プローブを用いた薄膜の微細加工および評価、(2)微細加工された固有ジョセフソン接合スタックへの電流注入によるドーピング制御に取り組んだ。 原子間力顕微鏡(AFM)の探針を用いた局所陽極酸化法によるBi2212 単結晶薄膜のナノ加工については、湿度調整機能を付加した既存のAFM装置を用い、100nm 程度のライン加工が可能であることを確認したが、未だ再現性に問題があるため、湿度や短針の種類(ダイアモンド、Au,Ptコートなど)、加工速度・印加電圧などについて最適な条件を探索中である。また、AFM探針を利用する別の手法としてスクラッチによるナノ加工についても実験を開始した。実際、Bi2212 結晶が探針に比べ柔らかいため、容易に数100nm 深さの溝を切ることが可能であり、現在抵抗測定が可能な形状への試料加工を進めている。 電流注入によるドーピング制御については、作製した全ての試料において、電流注入によるドーピング現象を確認した。In-situでの逐次ミリングにより固有ジョセフソン接合数を段階的に増加させて、ドーピングが開始される閾値電圧を調べると、接合数依存性は小さいものの徐々に増加する傾向を確かめた。渦糸相図に与える影響については、化学的ドーピングと同様にキャリア密度増加とともに異方性が減少し、渦糸格子融解転移温度・磁場が電流注入ドーピングにともない増大することを明らかにし、渦糸状態制御に向けて有用な手段の一つとなり得ることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
局所プローブを用いたBi2212単結晶薄膜のナノ加工については、湿度制御ユニットの追加やAFM加工と4端子電気抵抗の同時測定など、装置系に関しての準備はほぼ完了した。現在、湿度や短針の種類(ダイアモンド、Au,Ptコートなど)、加工速度・印加電圧・探針圧力などについて最適な条件を模索している段階である。局所陽極酸化により高さ数nmという微小なハンプ構造をもつ酸化領域を創り出せることが分かった一方で、突発的に10ミクロンもの広さの巨大な陽極酸化領域が出現する場合もあり、安定した加工条件を得るに至っていない。そのため、物性測定を行える試料の作製が未達であり、この点について研究に遅延がある。 一方、微細加工したBi2212の固有ジョセフソン接合への電流注入ドーピングに関しては、試料作製および再現性の確認を終え、ドーピング条件やドーピング・アンドーピングの制御性、異方性の変化や渦糸状態へ与える影響について調べることができ、およそ予定通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
局所プローブを用いたBi2212単結晶薄膜のナノ加工については、現在進めている、加工のための最適条件探しを継続しつつ、まずは、FIBや光リソグラフィーなど他の微細加工技術と組み合わせて、電気抵抗測定用の試料形状(ナノブリッジ、ナノリング、アンチドット格子など)への加工を進める。最終的には、全工程AFMナノ加工で行うことを目指し、この手法により加工ダメージがどの程度抑えられるのかを検証する。 電流注入ドーピングに関しては、試料内の酸素量の不均質といった要因を排除すべく、固有ジョセフソン接合部分の更なる微小化を進める。また、酸素ドープ量やその他異なる組成のBi2212での電流注入ドーピング現象について調べ、より制御性の良い条件を見出す。さらに、接合形状に加工しないBi2212最表面層への直接ドーピングを試みる。渦糸物性に関連して、ドーピング前後での固有ジョセフソン接合の磁場中特性を詳細に調べ、渦糸状態制御による応用の可能性を探る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
AFMカンチレバーなどの消耗品を実験の進捗に合わせ、購入するため。 AFMカンチレバー、単結晶基板、ガスなどの消耗物品購入に充てる。
|