研究課題/領域番号 |
24560025
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
伊藤 智徳 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80314136)
|
研究分担者 |
秋山 亨 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40362363)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 半導体表面構造 / 状態図 / 格子不整合系 / ぬれ層表面 / 量子ドット / 成長機構 / 吸着・脱離 / 計算材料科学 |
研究概要 |
今年度は,格子不整合InAs/GaAs(001)系におけるInAs(001)ぬれ層表面の内,特に詳細が不明な(nx3)表面に焦点を絞って理論検討を行った。研究実績の概要は以下の通りである。 ・InAs(001)-(2x4)ぬれ層表面構造:基板表面であるGaAs(001)-c(4x4)α上に1.2-1.4分子層のInAsを供給することで,ぬれ層の終状態としてInAs(001)-(2x4)表面が出現することが実験的に知られている。この(2x4)表面構造の詳細を温度とAs分子線圧力の関数として検討し,一般的な成長温度700-750 K において2個のAsダイマーから成る(2x4)α2表面が安定であることを明らかにした。 ・成長過程でのInAs(001)ぬれ層表面構造:上記の結果に基づき,InAs供給に伴う表面構造変化について検討を行った。その結果,GaAs(001)-c(4x4)α表面に0.63分子層のInAsを供給することでInAs(001)-(2x3)表面へ,さらに0.71分子層の供給により(2x4)α2表面へと変化することを見いだした。すなわち終状態としての(2x4)α2表面は計1.34分子層の供給により出形成される。これは,1.2-1.4分子層という実験結果と定量的に一致する。ただその過程において,0.19分子層相当のAs脱離が生じることが重要である。 ・InAs(001)-(nx3)ぬれ層表面構造:上記のAs脱離と表面構造の関係を解明するために,(2x3)表面を含む(nx3)表面(n=2, 4, 6, 8)の相対的安定性について温度とAs分子線圧力の関数として検討を行った。その結果,成長条件下では一部の表面Asダイマーが脱離した(6x3),(8x3)表面が安定であることを明らかにした。これは(2x3)表面を欠損ダイマーを含む(nx3)表面とするSTM観察と一致する結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,InAs/GaAs(001)系を対象にその「ぬれ層」に注目し,表面構造変化を基板温度,分子線圧力のみならず,膜厚の関数として検討することで,ぬれ層表面形成,その後の界面転位形成,ひずみ緩和後の表面でのナノ構造形成との関連も含めて系統的な検討を行うことを目的としている。今年度は膜厚に対応するInAs分子層厚の増加に伴い出現する安定なInAsぬれ層表面構造を,基板温度,分子線圧力の関数として決定してきた。その結果,始状態であるGaAs(001)-c(4x4)α構造からInAs(001)-(nx3)構造を経由してInAs(001)-(2x4)α2構造が出現することを明らかにした。さらに,その過程においてAs脱離が生じており,(2x3)表面を含む(nx3)表面の安定化に重要な役割を果たしていることを見いだした。これらの知見は,次年度以降検討予定である,ぬれ層表面上のIn原子,As分子の吸着・脱離検討の基盤となるものであり,本研究の順調な進展を示すものと判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的であるぬれ層表面形成からナノ構造形成への系統的な関連解明に向けて,今年度明らかにした各種ぬれ層表面構造上でのIn原子,As分子の吸着・脱離検討を行い,ぬれ層に固有の成長過程を明らかにする。例えばGaAs(001)-c(4×4)α表面からInAs(001)-(2×4)ぬれ層表面への変化には1.34分子層のInAs 供給が必要となることを示してきた。一方GaAs(001)-c(4×4)α表面にGa 原子のみを0.5 原子層供給するだけでGaAs(001)-(2×4)表面に変化することが知られている.この実験事実は,InAs ぬれ層表面においてはAs 原子の同時供給なくして(2×4)表面に変化しないことを示唆している。これはぬれ層に特徴的な現象であり,予備検討においてもInAs(001)-(1×3),(2×3),(2×4)ぬれ層表面にはIn 原子単独での吸着は起こらないことを見いだしており,次年度は各種ぬれ層表面におけるIn原子とAs分子の吸着・脱離との関連を成長条件の関数として系統的に検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は成果発表として第17回結晶成長国際会議(ワルシャワ:2013年8月11日-16日),米国物理学会(デンバー:2014年3月3日-7日)参加のため外国旅費として800千円,応用物理学会参加を始めとする国内旅費として100千円,その他計算機間連消耗品購入のため100千円を予定している。
|