研究実績の概要 |
前年度に格子不整合InAs/GaAs(001)系における従来の(2x3)表面上にはIn吸着ひいてはInAs成長が起こりえないことを指摘するとともに,Asダイマー欠損を有する(nx3)表面(n=4, 6, 8)が安定かつIn-Asダイマー形成を通してInAs成長が進行する可能性を明らかにした。この知見に基づき今年度は,InAs(001)-(2x3)ぬれ層表面での成長過程を中心に検討を行った。研究実績の概要は以下の通りである。 (1) 安定な表面は電子計数モデル(ECM)が成立するAsダイマー欠損を含む (8×3) 表面と考えられ,そのAsダイマー欠損領域にIn原子が優先的に吸着する。(2) Asダイマー欠損領域に吸着したIn原子は引き続くAs原子の吸着によりIn-Asダイマーを形成する。(3) その後,In-Asダイマーに隣接するAsダイマーの脱離が生じ,再び (2) と (3) の過程が繰り返されることで,最終的に (8×3) 表面は1つのダイマー欠損と3つのIn-Asダイマーから成る (4×3) 表面に変化する。(4) (4×3) 表面ではAsダイマー欠損領域が存在することで In 原子は吸着するが,その結果生じるひずみを緩和するために,さらに隣接するAsダイマーが脱離して行く。 以上の結果から,GaAs上のInAs(001) ぬれ層表面における成長は,InAs層形成に伴う大きなひずみを緩和するように,表面原子配列そのものをその都度変化させながら進行していると結論づけることができる。またGaAs上のInAs量子ドット核分布が,(n×3) ぬれ層領域と (2×4) ぬれ層領域の分布と密接な関係があることが実験的に報告されており,(4×3) 表面から(2×4) 表面へ変化して行く過程でのひずみ緩和と表面原子再配列の解明が量子ドット形成を考える上で重要と考えられる。
|