本研究は、シリコン基板などの半導体結晶中のドーパント(ホウ素やリン、ヒ素などの比較的軽い不純物元素)を、高感度かつサブナノメートルの空間分解能で深さ方向分析するためのイオン散乱分析法の開発(改良)を目的とした。弾性反跳粒子検出法(ERD)を用いて母材中の軽元素分析を行う場合の、入射イオン(プローブイオン)の種類やエネルギーについて実際に測定に基づいて検討を行った。分析対象の不純物元素より軽い入射イオンを用いることによって、目的の反跳イオンを磁場型エネルギー分析器でエネルギー分析を行うときの散乱されたプローブイオンの同時検出が避けられ、不純物元素のより高感度な測定が可能なことを示した。加えて、反跳イオンの検出器(一次元位置検出器)の直前に適切な厚さのマイラー膜(実験では厚さ0.5 μmを使用)を設置することで母材原子の反跳イオンを阻止し、さらなる感度向上が達成できることを示した。 今年度は、これらの改良を加えたERD法を用いて、シリコン基板または炭素材料(高配向性熱分解黒鉛またはグラフェン)に少量(1原子層から数原子層程度)のリチウムをその場堆積させた試料について分析を行い、検出下限・深さ分解能の評価、表面のリチウムの挙動に関する観察を実施した。その結果、黒鉛表面のリチウム原子について検出下限が0.01原子層以下(3e13 atoms/cm2 程度)、深さ分解能が約0.5 nmが達成された。また、内部のリチウム原子に対する深さ分解能は深さが3 nm、5 nmの場合にそれぞれ約2 nm、3 nmであった。これらの高い性能はリチウムだけでなく、他の軽元素の分析でも同様に期待できるものである。
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