研究課題/領域番号 |
24560028
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齊藤 結花 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90373307)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 走査プローブ顕微鏡 / 超精密計測 / プラズモニクス / 顕微イメージング / ラマン分光 |
研究概要 |
本研究では、光を用いて非破壊的に分子配向のナノ・イメージングを実現する新たな装置を作製し、次世代微小デバイス開発に強力なツールを提供することを目的としている。近年の電子デバイスサイズの微小化にともない、高い空間分解能で材料の“配向”を評価することが必要とされている。特に有機半導体分子は配向角によって電荷移動度が異なるため、配向分布を測定することが性能評価に必須となる。ここでは近接場光学の特徴を生かしたユニークな偏光測定とラマン分光を組み合わせることで、ナノメートルの空間分解能をもって試料分子のxyz3軸方向の完全な“配向”を高い精度で決定できる手法を開発する。本年度では以下の2点を達成することができた。 ① 偏光を制御した近接場ラマン・イメージングシステムを作製 試料面に平行な偏光状態(xy偏光)と垂直な偏光状態(z偏光)を実現し、かつこれらの偏光が集光点を中心に強度を持つように分布させるための偏光配置を設計し作製した。アルファ石英等の標準試料を用い集光点の近接場光学像を取得して偏光状態を評価して、システムが正しく機能していることを確認した。 ②プローブ先端が作る偏光状態の評価 近接場光学顕微鏡は、先端が先鋭な金属プローブ先端に光電場を局在化させて自由に移動するナノ光源として機能させる。ここで形成されるナノ光源は一個のダイポールと近似することができて、その向きを評価することが定量的な偏光測定に不可欠となっている。このダイポールの配向を、デフォーカスした散乱パターンを測定することで確認することができる。本年度は、検出系の一部に小型CCDカメラとピンホールを有する光学系を導入し、測定したダイポールのパターンから配向状態を評価するプログラムを作製して、近接場における定量的偏光状態評価を初めて実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノスケール偏光ラマン測定の基盤となる、偏光制御近接場光学顕微鏡システムと、プローブ先端のダイポールの評価方法を確立することができた。従って今後、有機半導体薄膜等の未知試料を測定して、新たな科学的知見を得るための準備は完全に整っており、順調な研究経過と言える。
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今後の研究の推進方策 |
本装置で用いる励起光の波長は488nmを想定しているが、分子振動を基盤としたラマン分光では、この波長で弱い信号光しか得られない試料がある。一方で分子の共鳴吸収に一致した波長域では偏光ラマンスペクトルは電子状態の情報を含んだ煩雑なものとなる。したがって測定する試料によって適切な波長を選択する必要が生じると予想される。実験の現場ではレーザー光源を取り替えることは労力を要するため、波長可変レーザーの導入も含め試料にあわせて光源波長を変えることを検討する。今年度は、完成された装置を用いてペンタセンをはじめとする有機半導体分子薄膜の偏光ナノ・イメージングを行う。共同研究者と連携して得られたデータから分子配向と電気特性の相関を議論し、デバイス設計の指針とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は以下のシステムの改良を計画しており、それにあわせた物品の購入を行う予定である。(1) 実際的な試料を測定する機会が増えるために、試料からのラマン散乱光を電子共鳴波長にあわせて測定する目的で、新たに励起光源を導入することを検討している。現在500 nm以下の可視域の連続発振レーザー光源は所持しているが、600 nmより長波長の赤色光源でラマン分光を行うことで、より詳細な試料の化学的性質にアクセスできると考えている。(2)光学系の調整の精度と効率を上げるために、散乱光をモニターしながらの調整を行う光学系を設計しており、簡易光検出器の購入を予定している。(3)空間的に一部の光を遮断したマスクを自由に作製できる空間位相変調器を導入して、よりフレキシブルな偏光測定を計画している。空間位相変調器を制御するコンピュータシステムも同時に導入する。 以上の設備品に加え、システム拡大に際して光のパスを変更する必要があるため、高反射効率のミラーや色収差補正のレンズ及び対物レンズ等を同時に導入する。光源の導入に伴って、レーザーラインフィルターとエッジフィルターも同時に追加する。さらに測定回数の増加とともに近接場光学顕微鏡用カンチレバーを大量に消費する必要があるので、消耗品としてはやや高額のこれらの物品の購入費に充当する。 設備品消耗品に加えて、本研究で得られた成果を国際国内学会等で報告するために学会出張費が必要となるため、一部の費用をここにあてる。
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