近接場光学顕微鏡を用いて光の偏光測定を行うことで、試料の配向をナノスケールの空間分解能で測定することができて、多角的な分子イメージングが可能になる。しかし、これまで近接場光学顕微鏡を用いた偏光測定は困難とされてきた。これは、測定に用いる金属製ナノサイズのプローブが真空蒸着によって形成されるために、先端が常に不規則な形状を持っているため、近接場光学顕微鏡によって実際に印可される偏光を定量的に評価することができなかったためである。本研究で我々は、入射光に照射されたプローブ先端を単一のダイポールとして近似し、この配向方向を評価する方法を確立した。この手法では、プローブ先端のデフォーカスイメージを測定し、結果を最小二乗法によりダイポールを特徴付ける2つの角度パラメータを決定することに成功した。実際の近接場プローブについてダイポールの向きを決定し、カーボンナノチューブを試料に近接場ラマンイメージを取得した。カーボンナノチューブのGバンドは、チューブの配向方向に強い偏光特性を示すため、偏光測定の標準試料として最適である。測定の結果、近接場光学像のコントラストは、プローブ先端の作るダイポールに強く異存していることがわかった。本手法は、光測定から分子の配向を決定するのみならず、定量的な近接場光学顕微鏡測定を可能にしたという点からも、大きなインパクトがある。本研究の成果によって、ナノスケールで分子配向を決定する強力な分析法が確立した。
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