研究課題/領域番号 |
24560029
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
大宅 薫 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (10108855)
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研究分担者 |
山中 卓也 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 技術専門職員 (00546335)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イオン顕微鏡 / 二次電子放出 / ヘリウムイオン / シミュレーション |
研究概要 |
10 keV以上のイオンによる固体表面からの二次電子放出は、電子衝撃の場合と同様に、(1)入射粒子による固体内での初期電子の生成、(2)固体内での電子カスケードと拡散、(3)表面電位障壁を超えて真空への放出による。部分波展開法を用いて固体内でのイオンの電子生成断面積を計算して、初期電子の固体内衝突過程(過程(2))のモンテカルロシミュレーションによって従来に比べより詳細なモデルを構築し、過程(3)を経て放出される二次電子の収量とその入射エネルギーや入射角依存性などの特性の評価性能を向上させた。このモデルによって、固体内の電子カスケードの空間的広がりや放出された二次電子のエネルギー分布のような微分的な特性の評価精度が向上し、微細化するデバイスの表面および内部構造を模した実評価シミュレーションや、構成絶縁材料の帯電などの評価も可能となった。 ヘリウムイオンによる二次電子収量と放出二次電子のエネルギー分布などの二次電子基礎特性の入射エネルギーや材料による変化を計算し、電子やガリウムイオンの場合との相違点とその原因を明らかにした。また、放出二次電子のエネルギー分布はデバイスの故障解析に使用される電圧コントラストと密接に関係するため、印加電圧による放出空間の電界分布と二次電子の軌道解析をも行うシミュレーションコードに発展させた。 また、イオン照射による材料の動的な変化による二次電子放出の基礎特性の変化を評価するため、イオン注入と原子混合による材料の動的変化を計算する既開発のコードとの複合化を行い、原子レベルでの材料変化の時間発展を計算する分子動力学コードも開発中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通りに、ヘリウムイオンによる二次電子放出の基礎特性を評価するシミュレーションモデルを構築し、二次電子放出の基礎特性を評価するシミュレーションコードを開発した。これを用いて、二次電子収量や放出二次電子のエネルギー分布の入射エネルギー依存性および材料依存性を評価し、電子やガリウムイオンによるそれら特性の違いとその原因を明らかにした。これによって、従来の走査電子顕微鏡やガリウムイオンを用いたイオン顕微鏡に対するヘリウムイオン顕微鏡の優位性を示した。これらの成果を、デバイス応用に関するSPI Advanced Lithography 2013年会議で発表するとともに、英国物理学会が主催する総合的表面科学会議でも発表した。また、ヘリウムイオン照射時のイオン注入や原子混合による材料の二次電子放出の動的変化を評価するダイナミックコードを開発、原子レベルでの材料変化を計算する分子動力学コードの開発も進んでいる。一方、デバイスの実評価のための電圧コントラストの評価コードの開発など当初計画以上の進展もあり、本計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで開発したシミュレーションモデルを発展させ、すでに開発しているガリウム集束イオンビームを用いたイオン顕微鏡特性の評価シミュレーションコード(既開発)を基に、デバイスの実評価で問題となる絶縁薄膜の帯電やナノ構造の実評価が可能なヘリウムイオン顕微鏡の二次電子像評価システムの構築を行う。 帯電の評価のために、今年度開発した二次電子放出モデルに材料内部に蓄積される電荷の空間分布計算とそれら電荷による材料内外の電界計算モデルを結合する。この電界が材料から放出された二次電子の軌道計算(今年度開発)に影響を与え、これによって材料内部の電荷分布や電界も変わる。これについて今年度すでに開発を始め、その性能を向上させ、帯電現象および二次電子放出の時間発展を追跡する自己無撞着なシミュレーションコードに発展させる。開発するシステムによって評価できる諸性能は、像解像度、材料コントラスト、形状コントラスト、電圧コントラストおよびチャネリングコントラストなどとする。 また、イオン照射損傷や原子混合の二次電子基礎特性への影響を評価する分子動力学コードの開発も継続し、次年度中の完了を目指す。 さらに、開発したシミュレーションコードの性能評価と高性能化を進めるため、本研究計画において、実機評価を行うこととする。このため、次年度の実機評価に向けた共同研究の海外研究機関との打ち合わせと準備を行い、最終年度での更なる研究の発展を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度早期に購入したワークステーションが当初計画より安く入手できたことと、ハードディスクなどの周辺機器、ソフトウエアが既存のもので対応できたため、物品費の一部を、次年度に繰り越した。また、研究分担者の今年2月末アメリカ出張に係る外国旅費について4月に支出予定であるので、その額を次年度に繰り越した。 次年度には今後の研究推進に必要なコンピュータ周辺機器の増設が必要となるため、繰り越し分の一部を当初の次年度物品費の増額に充てる。また、当初計画通りの研究成果発表のための旅費とともに、繰り越し分の一部をデルフト工科大学など国内外研究機関での実機評価に向けた共同研究の打ち合わせと準備のためにも使用する。
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