イオン・固体相互作用の微視的モデルに基づく二次電子放出のシミュレーションコードを開発し、ヘリウムイオン顕微鏡の像形成性能に係る二次電子収量の入射エネルギー依存性、入射角依存性、材料依存性、放出二次電子のエネルギー分布や角度分布などの基礎特性を評価した。二次電子収量が大きく数千個程度の僅かな照射量で試料表面を観察可能であること、表面近傍でのビーム広がりが小さいため表面像が鮮明であること、電子ビームやガリウムイオンビームに比べて絶縁膜の帯電が小さいことなど、走査電子顕微鏡や従来のガリウムイオン顕微鏡に対する優位性を示した。 シリコン基板上の百ナノメートル程度の周期的溝構造の表面形状コントラストや数十~数百ナノメートル厚の酸化膜の帯電コントラストをヘリウムイオン顕微鏡で観測し、実形状、実照射条件でのシミュレーションと比較してヘリウムイオン顕微鏡の実性能を評価した。段差コントラストが従来の走査電子顕微鏡より鮮明であること、酸化膜が薄くなるに従い帯電が緩和されることなど、ヘリウムイオン顕微鏡の像形成性能の詳細メカニズムを明らかにした。 今年度は結晶方位コントラストの評価を行い、イオン反射率と二次電子収量の入射角による変化を分子動力学シミュレーションによって詳細に調べた。結晶軸方向のビーム入射でチャネリングによる大きな減少を再現し、照射量や材料温度による影響を調べている。また、EUV多層膜マスクのイオンビームによる照射損傷を動的モンテカルロシミュレーションで評価し、従来のガリウムイオンに比べ大きな照射量でも膜の混合や変形が遥かに小さいことを示した。さらに、イオン顕微鏡の最近の開発動向に対応して、他イオン種を用いたイオン顕微鏡の評価も可能なシミュレーションコードに拡張し、水素イオンやネオンイオンによる二次電子放出の基礎特性とそれらイオンを用いたイオン顕微鏡の実性能も評価した。
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