研究課題/領域番号 |
24560033
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
高橋 功 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10212010)
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キーワード | 生分解性高分子 / 薄膜 / 高分子結晶 / ガラス転移 / X線表面回折 / X線表面散乱 |
研究概要 |
X線反射率(XR)と微小角入射X線回折(GIXD)を中心とするX線表面回折法を用いて、様々な条件下における生分解性高分子超薄膜の表面・界面モフォロジーと薄膜構造の決定を試みた。この年度に取り組んだ主なテーマは、1.ポリ乳酸(PLLA)の立体異性体PDLAブレンドの薄膜におけるステレオコンプレックス(SC)化とそのメカニズム、 2.ポリヒドロキシブチレン(PHB)薄膜にPLLAを添加した際の結晶化、3.ポリスチレン(PS)薄膜のガラス転移近傍で見られる特異なメモリー効果、4.果糖ガラス薄膜で見出された負の熱膨張現象とその機構解明である。主な成果は 1.PLLAとPDLAを1:1でブレンドした厚さ20nm程度の薄膜では昇温によりSC体が形成されて融点の上昇などの物理特性の改善が認められることを24年度に発見したが、25年度の実験で、膜内の分子の配向(膜内での分子の向き)はランダムではなく、しかも温度(熱処理)によって大きく変化することを見出した。薄膜の光学特性、電気特性、生分解速度などの制御につながる重要な知見であると判断される。 2.PHBにPLLAをブレンドした際に薄膜ではPHBの結晶性が阻害されることを報告してきたが、その効果は一様ではなく、PLLAの分子量依存性を示すことが見出された。微量PLLAによるPHB薄膜の結晶性の制御の面からは有効な情報である。 3.PS薄膜を急冷してガラス状態にした後も膜厚は時間変化していく。時間変化を特徴づける緩和時間がPS薄膜がガラス転移点以上の温度でのアニール温度のみならず時間にも依存することが確認された。ガラスが液体時代の記憶を保持しているということを意味し、凝縮系物理学の未解決問題であるガラスの物理に対し、寄与し得る成果であると考えられる。 4.果糖を薄膜化することで、極めて報告例の少ない負の熱膨張現象を示すことを見出したが、25年度は負膨張のメカニズムに水素結合が密接に関連していることを示すデータを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1複雑系薄膜の表面・界面・薄膜に固有な新規物性を探し出し、2それら物性の機構を解明することで、3環境に優しい生分解性高分子の薄膜構造と表面モフォロジーの制御を行い、環境調和型社会の実現を目指すことを目標としている。 平成25年度は「研究実績の概要」に記したように、高分子薄膜固有とも言える構造・物理特性をさらに幾つか発見することができたので、研究目標の1に関してはそれなりに悪くない自己評価を与えることができるものと思われる。 2.に関しては平成25年度では糖類ガラス薄膜の負の熱膨張のメカニズムに”弱い水素結合”の温度変化と薄膜内部での分子配向性が本質的であることを強く示唆する結果が得られたため、一応の進展があったと判断した。 SC体薄膜内部の分子の配向秩序の制御法とPHB薄膜に微量のPLLAを添加することでPHBの結晶化度の制御に部分的に成功したので、3についても十分とは言えないが一定の成果を挙げることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究目標の1「複雑系薄膜の表面・界面・薄膜に固有な新規物性を探し出す」は26年度も継続する。PHBには生分解性のキチンを添加した試料、高分子ガラスの緩和ではPMMAの薄膜の緩和、糖類ガラスではトレハロースとその両親媒性化合物薄膜の熱膨張の調査を新規に計画している。 目標2の「複雑系薄膜の表面・界面・薄膜に固有な新規物性の機構解明」と3「環境に優しい生分解性高分子の薄膜構造と表面モフォロジーの制御」が26年度の大きな課題である。2の進展には薄膜の膜厚や基板の性質、高分子試料の分子量を系統的に変化させながら、構造と物性がいかに変化していくかをひとつひとつ明らかにして行くことで3へとつなげていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
通常の研究費を使用していった結果、1,200円程度の研究費の残額が発生した。 繰越金として研究費に組み込み、全額使用する予定である。
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