研究課題/領域番号 |
24560034
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
眞砂 卓史 福岡大学, 理学部, 准教授 (50358058)
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研究分担者 |
柴崎 一郎 公益財団法人野口研究所, 顧問 (10557250)
石田 修一 山口東京理科大学, 工学部, 嘱託教授 (70127182)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | InSb / InAsSb / 分子線エピタキシー / 量子井戸 / バンドアライメント / ホールセンサー / スピン軌道相互作用 / スピンポンピング |
研究概要 |
InSb量子井戸とInAsSb量子井戸について、系統的な井戸幅依存性、抵抗変化、移動度、キャリア密度依存性などの測定結果を比較することにより、As導入による劇的な抵抗減少の特性変化の原因について検討をおこなった。バンド構造の影響を考慮するため、量子井戸のバンドダイアグラム計算を行い、井戸構造がタイプI のInSb量子井戸は、SbのAs置換が0.1で井戸構造がタイプIIに変化し、さらにAsを0.3まで置換するとタイプIIIになることも分かった。またこの変化に伴い、量子井戸の伝導体の底がフェルミ面の上から下へ移動し、これがInAsSbの低温で低抵抗を維持できることと大きく関わっていると考えられる。これは、室温では基板と障壁層の間にできた欠陥などから供給される電子により、伝導体の底がフェルミ面下までかろうじて下がっているが、低温になるとこれらの電子も供給されずに、伝導体の底がフェルミ面より上がることにより空乏化すると考えられるためである。また、InSb量子井戸において、ドープ試料の井戸幅依存性から低温でのホッピング伝導に関連していると考えられる界面トラップ準位の存在を実験的に示し、その密度を定量的に見積もることができた。 スピン注入技術に関しては、微小強磁性体のサイズおよび形状の制御により、共鳴周波数を制御する指針を得た。また、スピンポンピングと非局所測定を組み合わせたスピン注入の実験を、まずは常磁性金属に対して行った。スピンポンピングが起きていないときは信号に全く変化がないが、起きているときは想定されるような信号変化が若干みられ、この方式でのスピン注入・検出が測定されている徴候が得られている。この結果については、さらに追試を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子井戸のバンドダイアグラム計算から、井戸構造がタイプI のInSb量子井戸は、SbのAs置換が0.1で井戸構造がタイプIIに変化し、さらにAsを0.3まで置換するとタイプIIIになることを明らかにした。この結果と、InSb量子井戸とInAsSb量子井戸についての系統的な井戸幅依存性、抵抗変化、移動度、キャリア密度依存性などの測定結果を比較することにより、InSb量子井戸とInAsSb量子井戸の伝導特性の差は、バンドアライメントに大きく起因していることを提案した。この結果については、平成25年度の国際会議で発表予定であり、さらにバンド計算をさらに詳細に検討した論文も投稿準備中である。 また、InSb量子井戸の井戸幅依存性から界面トラップ準位の存在を実験的に示し、その密度を定量的に見積もることができた。これは、低温でのホッピング伝導に関連していると考えられ、この結果も論文として投稿準備中である。 スピン注入技術に関しては、微小強磁性体のサイズおよび形状の制御により、共鳴周波数を制御する指針を得た。これは国際会議で発表を行うとともにプロシーディングスも受理された。さらに系統的な実験により、通常論文としても採択され現在印刷中である。さらにスピン波スピン流の伝搬の結果も得られてきており、半導体との組み合わせを検討中である。 スピンポンピングと非局所測定を組み合わせたスピン注入の実験については、まず常磁性金属に対して行い、予備実験ではあるものの、この方式でのスピン注入・検出が測定されている徴候が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた実験結果をさらに拡充させるため、系統的に組成や量子井戸構造を変化させた試料に関して、磁場中における電子輸送現象を調べ、超高感度化に適した条件を探索する。次年度は特にキャリア密度の制御に関連して、光照射下およびゲート制御試料の電子物性についての検討を行う。特にゲート電極作製に伴い、移動度が大きく向上する予備的な実験結果が得られている。現在絶縁膜作製時に生じるひずみによる効果や、バンドベンディングの効果、ドーピング効果などを検討しているが、現時点でははっきりしていない。ウエハへの簡単な追加加工で移動度が向上できるのは、応用上も非常に有用であるため、層間絶縁膜のみの場合や絶縁膜の膜厚依存性、ゲート電極作製、ゲートによる制御など、どの段階で何が影響しているかを明らかにし、さらなる高移動度実現のための指針を得る。そしてさらに、ゲートによるスピン軌道相互作用の制御について評価を行う。 スピン注入に関しては、まず金属を用いたスピンポンピング・非局所測定について、得られている結果の再現性も含め、スピン注入・検出技術を確実なものとし、InSb系へのスピンポンピングに適用する。また、検出技術とし逆スピンホール効果の利用はスピン注入確認のための実験として確立されてきたので、逆スピンホール効果による検出も検討したい。さらに、スピン波を利用した半導体のスピン物性の相互作用の可能性の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、高周波を用いたスピン注入に関連する実験として、微小信号を検出するための高周波アンプを購入する予定である。研究を進めて行くにあたり、測定装置の感度不足が問題になり、平成24年度購入を検討した時点では納期・予算的に問題があったため、福岡大学の予算を繰越し、本年度の購入に用いることとした。また野口研究所の繰越しは、2月に予定していた福岡大学での打合せの予定を延期したためであり、次年度の打合せに用いる予定である。平成25年度は、上記の高周波アンプの購入の他、低温測定に必要な消耗品、微少電流発生磁場に対するホールセンサを評価するための治具の作製、および本年度得られた結果を国内会議および国際会議(International Conference on Crystal Growth and Epitaxy 17など)で発表するために旅費として利用する予定である。
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