研究課題/領域番号 |
24560042
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
但馬 文昭 横浜国立大学, 教育人間科学部, 教授 (10236523)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | エバネッセント波 / プラズモン効果 |
研究概要 |
本研究は、近接場光(エバネッセント光;通常の光と異なる伝搬しない光)をごく細い糸(プローブ)に当てて変換した散乱波を測定することにより、プラズモン効果を定量的かつ統一的に理解できるようにすることを最終的な目的としている。 その第一歩として、本年度は物性的に明確に定義できる太さ100 nm程度の極細糸をプローブとし、プリズムに入射するレーザー光を全反射させてできるエバネッセント光をこのプローブに当てる系において、プローブ自体の近接場も含む近接場を正確に散乱波に変換する系の理論(モデル)を構築して実験により検証した。 このモデルでは、プローブを100nm程度の極細い円柱に、及び、これに比べてプリズム面をごく太い円柱に見立てた2円柱モデルとして散乱波の解を求めている。実験系は、100nm程度のプローブには蜘蛛の糸を用い、これとプリズム面からのナノスケールレベルの距離の調整には別の細い蜘蛛の糸2本を台糸として、プローブに対して直角に配置する方法を考案して行った。 実験では、まず、プローブとしての極細糸を採取し、波長660nmのレーザー光を用いてその散乱光の角度分布を測定することにより、その太さと屈折率を測定した。次に、プリズム上に直接プローブとなる極細糸を載せたサンプルとプリズム上に台糸を載せ、その上にプローブとなる極細糸を載せたサンプル2種を作成した。これらのサンプルを用いてエバネッセント光の散乱波と、比較のために平面波の散乱波を測定した。これは、臨界角の前後の入射角で測定することで容易に実施できた。 実験により得られた散乱波の強度の角度分布データを2円柱モデルで計算したところ、2種のサンプルとも実験と計算が良好に一致した。この結果、目的のモデル及び実験装置の妥当性を検証できた。また、これにより、従来明確に解明されていなかった近接場の定量的な評価が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の計画では、理論面からはプリズム上に 100 nm 前後の透明な蜘蛛の糸を載せ、これに全反射入射角でレーザー光を入射させて生ずるエバネッセント波を当てる系における散乱光のパターンを2円柱モデルにより構築する。一方、実験面からは、この系に対応する測定実験を行い、得られた実験データと計算結果を対照してモデルを検証することにより、近接場の定量的な評価を可能とすることであった。 結果としては2円柱モデルを構築し、これを実験により検証することができ、当初の計画を概ね達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は通常のエバネッセント光(波)の定量評価モデルとして2円柱モデルを構築し、実験により検証できたので、今後はこのモデルの一方の円柱を金属コートした2重円柱に置き換えた円柱-2重円柱モデルまたは2円柱とも金属コートした2重円柱-2重円柱モデルの理論構築を行い、実験による妥当性の検証を目指す。そのためには、2重円柱すなわち、ごく細い蜘蛛の糸またはプリズムに金属(金、銀、白金など)をコーティングする必要がある。 第一段階として、良質なコーティング膜をつけることが比較的容易な白金を使用してごく細い蜘蛛の糸に白金をコーティングするか、または、プリズムにコーティングする。 ごく細い糸1本にコーティングする場合は、コーティング後、糸の散乱光強度パターンを測定して対応する計算モデルで解析し、コーティング糸の太さと複素屈折率(クラッド)、屈折率(コア)を予め求める。その後、糸をプリズム上に載せて実験を行い、測定データを2円柱-2重円柱モデルにより解析する。 プリズムにコーティングする場合は、コーティング後、コーティング膜の厚さと複素屈折率を全反射減衰法により測定し、これに極細糸を載せて実験を行い、測定データを2重円柱-2重円柱モデルにより解析する。 これらの方法によりモデルの妥当性を検証する。モデルの妥当性が検証できた後、コーティングを金、または、銀に置き換えて同様の実験を行い、検証済みのモデルにより解析する。これにより、プラズモン効果の定量的な評価ができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ごく細い糸に白金または金あるいは銀をコーティングするには、現有設備のイオンコーターを使用するが、ターゲット(消耗品)が必要になる。また、蜘蛛の糸に均一にコーティングするためには、専用の治具を開発する必要がある。そのための材料等が必要となる。また、研究成果を学会等で発表するための費用も必要である。 これまでの研究の過程で、波長660nmのレーザーを使用しているが、現有設備のセンサーの感度が不足していることが明らかになり、高感度のものに変更する必要が生じている。次年度の研究費により高感度のセンサーを購入したいと考えている。 少額ではあるが、予算の残額(38円)が生じたが、次年度予算と合わせて活用したい。
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