研究課題/領域番号 |
24560045
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井上 恭 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10393787)
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キーワード | 量子鍵配送 |
研究概要 |
代表者研究者考案による差動位相シフト(DPS)量子鍵配送(QKD)に関すれ研究を中心的に進めている。H25年度は以下の項目に関し研究を行った。 (1)DPS-QKDに対する連続クリック攻撃:前年度、実用レーザ光源を用いるDPS-QKDに対する連続クリック攻撃について検討し、純粋コヒーレント光を用いる場合より盗聴に強い見通しを得た。この検討をさらに進め、論文化した。 (2)量子/古典信号多重システム:QKDでは量子チャネルと古典チャネルが使用される。両者を1本のファイバで波長多重伝送できれば効率的であるが、自然ラマン散乱がその障害となることが知られている。この課題に関して検討し、量子信号光と古典信号光の波長間隔を狭くすると、ラマン散乱の影響を低減できることを明らかにした。 (3)DPS-QKDに対するブラインド攻撃:超伝導単一光子検出器を用いるDPS-QKDシステムに対する盗聴法として、高パワー光を検出器に入射するブランド攻撃が提案されている。これに関して検討し、ハンディ型光パワーメーターによる簡便なモニター法により盗聴検知可能であることを示した。 (4)APD単一光子検出器:APD単一光子検出器はQKDのシステム性能を決めるキーデバイスであるが、その高速動作化を妨げる要因としてアフターパルスが知られている。これまでその対策がいくつか提案・開発されているが、いずれも動作速度が固定という欠点があった。この課題に関し、ローパスフィルタを挿入するだけという簡便な構成により、動作速度フレキシブルにアフターパルスを抑制する手法を提案し、原理確認実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、H25-26年度は、(i)APD単一光子検出器の高速動作化、(ii)デコイDPS-QKD、(iii) 巨視的DPS-QKD、について研究する予定であった。 H25年度実績(4)は計画項目(i)に関わる。当初計画とは異なる手法ではあるが、より簡便な構成を新たに提案し、その基本動作確認を行った。一部目標達成と言える。計画項目(ii)については、検討は進めたものの、まとまった結果を得るには至っていない。計画項目(iii)については、当初は実験を行う予定であったが、未だ未着手という状態である。これは、同様の目的をより簡便な構成で実現する巨視的IM/DD-QKD方式の理論検討を優先したためで、当初計画を変更して実施し、現在進捗中という状況である。 上記に加え、H25年度実績(1)(2)(3)の研究を行った。(1)(3)はDPS-QKD方式のシステム性能向上に関する研究、(2)はDPS-QKDのシステム化に関する研究であり、(1)(3)は所望の成果達成、(2)は一部達成、という状況である。 以上のように、当初の目論見通りには進んでいない項目、当初計画を変更して行い進捗中の項目、新たに行い結果を得た項目または進捗中である項目、が混在しているが、DPS-QKDシステムの高性能化という本研究プロジェクトの主旨からすると、総じて、7-8割方の進捗状況と言える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)量子/古典信号多重システム:H25年度実績(2)の項目をさらに詳細に検討し、論文化を目指す。また、波長多重に加えて、近年、光通信分野で進展が著しいマルチコアファイバによる空間多重技術の適用について検討する。さらに、これまではDPS-QKDシステムを想定していたが、他のQKDシステム(例えば、巨視的DPS-QKDシステムまたは巨視的IM/DD-QKDシステム)において量子/古典信号多重した場合はどうであるか検討する。 (2)強度変調DPS-QKD:DPS信号パルス列を10-20パルスごとにフレーム化し、各フレームの光強度をランダムに変調するDPS-QKDプロトコルについて、引き続き検討を進める。 (3)デコイDPS-QKD:強度の大きいデコイパルスをランダムに挿入することにより盗聴能力を低下させるDPS-QKDプロトコルについて、引き続き検討を進める。 (4)巨視的コヒーレント光QKD:これまで単一光子検出器不要のQKDとして、巨視的DPS-QKD及び巨視的IM/DD-QKDの検討を行ってきたが、この検討をさらに進める。シミュレーションによりシステム性能を評価するとともに、実証実験も行う予定である。 (5)その他:可能であれば、(i) 位相感応パラメトリック自然増幅光を用いる乱数発生、(ii) デバイス無依存DPS-QKD、(iii) 連続量QKDシステムへのデジタルコヒーレント受信技術の適用、(iv) H25年度実績(4)に引き続きローパスフィルタによるAPD光子検出器の高速動作化、などについても検討する。
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