研究課題/領域番号 |
24560046
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
鶴町 徳昭 香川大学, 工学部, 准教授 (50372719)
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研究分担者 |
下川 房男 香川大学, 工学部, 教授 (90580598)
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キーワード | メタマテリアル / 双曲線分散 / テラヘルツ / ポールドポリマー |
研究概要 |
符号の異なる誘電率を持つ媒質による多層膜構造は,双曲線型分散関係を示し光の状態密度が大きく増強することが期待される.本研究ではそれをTHz波発生に応用することを目的としている. その前段階としてFDTD法によるTHz帯メタマテリアルの透過特性解析を行った.まずメタマテリアルとしてよく知られている分割リング共振器構造や金属ロッド構造について考察するとともに,THz帯域の多層膜構造であるTHz帯1次元フォトニック結晶の解析を行った.この1次元フォトニック結晶は双曲線分散構造ではないが,層状構造を有しており,今後の多層膜メタマテリアルの解析に有用である.さらに,分割リング共振器と共振器型THz1次元フォトニック結晶の複合構造を想定した計算を行った結果,2つの共振器の結合状態を観測することができた.これは今後の検討が必要であるが,入射する電磁波の周波数とRabi周波数が同程度となる超強結合状態を観測できる可能性を示唆している.当初の計画にはない話ではあるが,近年注目されている話題でもあり,並行して追及する予定である. 一方,THz波発生媒質として,有機色素分子によるポールドポリマーを検討している.これはTHz波発生効率が大きいこと,加工がしやすいことなどが理由である.昨年度,プッシュプル型色素である通称LEMKEを合成し,これをポーリング処理することで非線形光学特性性を確認した.今年度はこの色素に紫外線を照射することでフォトクロミズム現象が起こることを確認した.今後はさらにポーリングをせずとも自己組織化により配向を行うことができる液晶性のLEMKE色素を合成し,その基本的な光学特性や非線形光学特性を調べる予定である.今年度はその前段階としてLEMKE色素ではないがペリレン誘導体の液晶性分子の配向状態などを吸収・発光の偏光特性より明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回,THz帯の符号の異なる誘電率を有する異なる媒質の多層膜構造により双曲線型の光分散関係を実現し,内部の光状態密度を増強することを目的としているが,THz帯の場合,各層の膜厚は数ミクロンから数十ミクロン程度になると考えている.このような膜厚 の基板のハンドリングは極めて難しく,所望のデバイスの作製にはより深い考察が必要であることが分かった.また,負の誘電率媒質として金属の微細構造を用いることを検討しているが,金属の持つ誘電率の虚部,すなわち損失の項をもっと減少させる必要もある. 現在,最適な構造の設計・製作に加えて金属を用いないサンプルの検討,例えば透明な材料を用いた導波モードの利用の検討も開始した.さらに通常メタマテリアルとして用いられる分割リング共振器構造にも着目し,その共振現象を利用したTHz波の発生などの検討 も開始している. ポールドポリマーに関しては,第二高調波発生の確認はできており,THz波発生にも成功しているが,より定量的な測定のためには励起光源としてこれまで用いていたcwモードロック・チタンサファイアレーザーよりはむしろ繰り返し周波数がkHz程度の再生増幅器 システムの方が好ましい.昨年度もそうであったが,現在再生増幅システムが不調であり,再度修理を余儀なくされているため,若干進捗が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
2年目が終わり,要素技術や基礎的な物理の理解は進んだが,本命のサンプル構造の作製をより進めるため,いろいろなアプローチでのサンプル設計・作製に着手する.具体的にはTHz体で所望の光学特性を示す金属微細構造の吟味・設計・作製そしてTHz時間領域分 光計による評価である.さらに金属を用いずに導波モードのエバネセント波増幅機構の利用を検討し,これまで研究してきた1次元フォトニック結晶構造の再検討をも行う.同時に可視域での金属・誘電体多層膜構造における広帯域パーセル効果の増強の事例を詳細に 検討し,この構造をTHz波発生に生かせるかどうかの検討を始める.THz帯,可視帯双方のメタマテリアル構造の相乗効果でTHz波発生の増強はもちろんのこと,それ以外の新規な物理現象の発見やデモンストレーションにつなげていきたい. 非線形材料としてはこれまでポールドポリマーを想定していたが,液晶性分子の利用によりポーリングせずとも自己組織化により配向する物質の導入も検討している.これにより高強度のTHz波発生素子の開発につなげていきたい. メタマテリアル分野からのアプローチと有機半導体・非線形光学材料分野からのアプローチを並行して行い,それらを組み合わせていくことでさらなる研究の進展を狙いたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
数千円の残金が出たが,その時点で特に必要なものがなかったので次年度に繰り越した. 次年度の研究費と合わせて物品費あるいは旅費などに充当する.
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