研究課題
今年度は、光褪色を起こさずに蛍光発光を効果的に引き起こすための二光子励起法を求めるため、光褪色過程の時間的特性、すなわち系の過渡応答を調べた。これまで、蛍光タンパク質の二光子励起において支配的な光褪色過程が、励起状態からの一光子吸収であることを示唆する結果を得ている。また、光褪色過程が三重項状態 T1を経由して起こることを示唆する結果を得ているが、褪色速度の定量的な評価には至っていない。励起された蛍光分子のうち一重項状態 S1にある分子数とT1にある分子数の割合を求めるには、S1からT1への項間交差の遷移速度とT1から基底状態 S0へ緩和の寿命を測定する必要がある。そこで、蛍光強度の経時変化を観測することで直接的にこれらの値を求めた。緑色蛍光タンパク質EGFPと黄色蛍光タンパク質EYFPについて一重項状態と三重項状態の間で生じる遷移に伴う蛍光強度の減衰と回復を測定した。S0、S1、T1の三準位系のモデルを仮定し解析を行ったが、三準位系ではその経時変化に対応できないことがわかり、未知の“暗”状態 Dを加えた四準位系に変えて解析を行った。その結果、今回扱ったEGFPとEYFPでは三準位系ではなく、四準位系で説明できることがわかった。また、T1の寿命が数100マイクロ秒であるのに対し、Dの寿命は約10ミリ秒と非常に長いことがわかった。しかし、上述の励起状態吸収が T1とDのどちらを起点とした遷移であるかは明らかではない。前者の場合、励起パルスの繰り返しの間隔を100マイクロ秒以上にすることが効果的であるが、後者の場合は10ミリ秒以上にしなければならないことになり、実用的な面からすると必ずしも良策とはならない。いずれにしても、励起状態吸収の起点を明らかにする必要があり今後の展開に期待したい。
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Ultrafast Phenomena XIX, Springer Proceedings in Physics
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DOI 10.1007/978-3-319-13242-6_133
レーザー研究
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