研究課題/領域番号 |
24560055
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
日坂 真樹 大阪電気通信大学, 医療福祉工学部, 准教授 (40340640)
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キーワード | 光制御 / 空間ソリトン |
研究概要 |
バルク材料深部の物質構造を高い空間分解能で局所制御可能な新しい3次元光制御法の開拓を目指し,パルス状空間ソリトン光の対向衝突位置で生じる非線形相互作用の物理機構の解明を目的としている。ビーム径が一定の状態でビーム伝搬する空間ソリトンを用いることで,本光制御法は材料深部を高い空間分解能で光計測制御可能である。本年度は,非線形相互作用による光学材料の局所構造変化の物理機構を解明するために,強誘電性SBN結晶内の対向衝突位置で誘起される局所非線形光学作用とその光学作用によるSBN結晶の局所構造変化を観察するための走査型位相差顕微鏡を構築システムに組み入れた。 輪帯照明を用いた走査型位相差顕微鏡では,開口数0.55,作動距離13mmの長作動対物レンズで輪帯照明し,SBN結晶内部を通過して形成された円環状光強度分布から複数の傾斜照明画像を再構成した。これらの傾斜照明画像をフーリエ変換し,フィルタ処理した各パワースペクトル画像を用いて結晶内部の位相コントラスト像を再生した。SBN結晶へのポーリング処理や光の一様照射処理を実施しているが,光路内で積算されたSBN結晶内部の屈折率分布は空間ソリトンによる屈折率分布より大きい結果となった。また,チタンサファイアレーザーの照射と撮像素子を同期計測することで,SBN結晶内部に局所形成される分極変化の実時間応答を構築した第2高調波顕微鏡で観察した。チタンサファイアレーザー光の揺らぎやストロボ照射法における時間分解が低いことに起因して,実時間観察での分極反転構造の観察には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,パルス状空間ソリトン光の対向衝突点において生じる非線形相互作用の物理機構を解明するために,対向パルス衝突点における分極反転機構の解明を試みる予定であった。動的ホロコーン照明型位相差顕微鏡を改良した輪帯照明による走査型位相差顕微鏡および第2高調波干渉顕微鏡を計測可能な状態でシステムに導入し,それぞれの計測装置がシステム内で使用できる状態に至った。しかしながら,厚さ1mmのSBN結晶内部を伝搬した透過回折光で結像した場合,SBN結晶のポーリング処理や一様照射を施しているにもかかわらず,結晶内部に形成されている屈折率分布が空間ソリトンで形成されたと考えられる屈折率分布より大きく,現時点では空間ソリトンで形成された屈折率分布のみの評価に至らなかった。また,第2高調波干渉顕微鏡による実時間観察においても,局所分極変化がストロボ照射法におけるゲート時間より高速に変化していると考えられ,分極反転形成過程の実時間観察に至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で解明できなかった対向パルス衝突点における分極反転構造の解明の研究を引き続き実施するために,まず,輪帯照明を用いた走査型位相差顕微鏡によるSBN結晶内部の屈折率構造観察を引き続き試みる。特に,前年度では空間ソリトンによる微小な屈折率変化を抽出できなかったため,得られた位相構造画像に対する差分処理やフィルタリング処理を適用する。これらの手法で空間ソリトンの伝搬経路が屈折率分布画像として抽出できれば,照射ビーム強度,結晶外部電場,結晶温度を変数として空間ソリトンによる位相変化量を計測するとともに,反転分極構造の形状や大きさを評価する。 また,平成26年度当初研究予定であった,本手法を適用可能な新しい光学材料の探索およびそれらの材料特性評価の一部を実施する。適用可能な新しい光学材料として,ポリマーなどの有機分子で構成された有機強誘電材料,屈折率変化を伴うフォトクロミック材料の2つの異なる特性の材料に絞り,実験を主として検討する。本提案手法の原理が適用可能であると判断できれば,空間ソリトンのビーム特性,対向パルス衝突点における光制御サイズ,信号雑音比,応答速度,安定性を測定し,新しい光学材料としての有効性を評価する。また,研究の進捗状況がやや遅れていることもあり,材料探索以外にも,FDTD(時間領域差分法)を用いた対向衝突点での電場分布および基本波と第2高調波間のエネルギー交換を考慮した数値解析を平行して行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
光学顕微鏡や局所温度制御装置などの購入予定設備の見直しや研究の進捗状況がやや遅れていることが起因して,次年度使用額が生じた。特に,SBN結晶内部を観察する光学顕微鏡の試作において,計測システムの自由度を高めるために,ステージや結像部分も含めて光学顕微鏡を光学部品等で自作したことにより,本年度の当該助成金の使用額が減った。 本年度繰り越した研究費の一部は,パルス状空間ソリトン光の対向衝突点における分極の反転機構解明を実現するためのシステム改良として,試料走査ステージやデータ解析装置の購入のために使用し,主として,構築した輪帯照明型位相差顕微鏡および観察画像の画像処理用の演算処理用に使用する。また,平成26年度当初予算は,本手法を適用可能な光学材料の探索研究を実施する上で必要な光学材料の購入を中心に,新しい光学材料の固定用ホルダーや光学フィルター等の光学部品,アルコールやアセトン等の薬品,高速同期パルス制御器の改良用等の電子部品,クリーンブース用防塵フィルタ,データ解析およびFDTD数値解析用の解析装置等に使用する予定である。また,本研究で得られた成果報告のための国際会議出張費や論文投稿費に使用する。
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