研究課題/領域番号 |
24560059
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
武田 良彦 独立行政法人物質・材料研究機構, 量子ビームユニット, グループリーダー (90354357)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 金属ナノ粒子 / 非線形光学 / 3次光学感受率 / 分光エリプソメトリー / フェムト秒ポンププローブ分光 / プラズモニクス / フォトニックスイッチ / 光双安定性 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、光制御による単一ナノ粒子の光スイッチングを実現することである。金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴とナノ粒子自身の内在する3次の光学非線形性を利用することにより、局所電場(ナノ粒子の内部電場)を変調し、光双安定性機能を発現させる。その実現には、まず非線形光学定数である3次光学感受率の波長分散特性の計測評価を行う必要がある。 本年度は、粒子サイズにより共鳴強度が大きく変化するAgナノ粒子と基本的な金属ナノ粒子材料であるAuナノ粒子に着目して、非線形光学特性の波長分散特性の計測評価解析を行った。 評価用試料の作製は石英ガラス基板への負イオン注入(AuもしくはAg)により行った。ナノ粒子径はイオン注入量により制御した。粒子径等の構造評価に関しては、透過電子顕微鏡観察、小角X線回折測定・解析により行った。非線形光学特性評価は熱変調効果が無いフェムト秒レーザーパルスによるポンププローブ法と分光エリプソメトリーによる光学的構造解析により行った。 Agナノ粒子に関しては、粒子径4~13nmにおけるサイズ依存性を評価した。3次有効光学感受率の絶対値はスペクトル全体で粒子径とともに増大するが、波長分散スペクトル形状は特に表面プラズモン共鳴近傍で大きく異なることが分かった。これは、ナノ粒子自身のサイズ効果のみならず、3次の非線形性による局所電場の変調によるものと考えられる。 Auナノ粒子に関しては、実際の局所電場(ナノ粒子の内部電場)並びにナノ粒子自身の3次光学感受率(材料定数)の波長分散特性の実験的評価に成功した。その波長分散スペクトルは、第一原理計算による束縛電子励起のモデル計算で全体構造はよく再現できるが、このモデル計算やバルク材料の熱変調の実験結果と比較して、そのスペクトルはブロードであることを発見した。これはサイズ効果を反映しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、まず金属ナノ粒子材料の3次光学感受率の波長分散特性の計測評価及びサイズ効果の解明を行う。その解析結果を基に材料設計・作製を行い、最終的にナノ粒子の局所電場(内部電場)を変調し、光双安定性によるスイッチ動作を発現させる計画である。 本年度は、Auナノ粒子材料とAgナノ粒子材料について、3次有効非線形光学感受率の波長分散特性の計測評価を行った。前者は可視光領域で表面プラズモン共鳴を示す基本的な材料であり、後者は表面プラズモン共鳴が、バンド間遷移領域と離れているため、局所場因子の寄与とその非線形項の影響を抽出しやすく、さらに粒子サイズにより共鳴強度が大きく変化する材料である。計測評価の結果、Auナノ粒子材料に関しては、ポンププローブ分光法と分光エリプソメトリーの併用による評価手法を確立することにより、ナノ粒子自身の3次非線形光学感受率の実験的導出に成功し、そのサイズ効果について初めて知見を得ることに成功した。Agナノ粒子材料に関しては、3次の有効非線形光学感受率のサイズ依存性に関して波長分散スペクトル全体で単調に非線形性が増大するだけではなく、そのスペクトル形状が大きく変化することを見出した。 以上のように第1段階としての3次非線形光学定数評価において、ナノサイズに起因する多くの知見を得ており、研究の進捗状況としては、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた成果に引き続き、表面プラズモン共鳴による局所電場増幅の大きいAgナノ粒子材料に関して、光学的構造解析を進め、3次の非線形光学特性の構造因子(局所場因子)と材料因子(金属材料自身の非線形感受率)、そのサイズ効果を明らかとする。また様々な材料種・形状・サイズの金属ナノ粒子材料について実験を進め、材料定数としての3次光学感受率及びそのサイズ効果の知見を得ること、複数の共鳴モードを持つ場合や多重極モード(四重極など)等における局所場因子による増強効果を確認する。 平行して過渡的非線形応答の励起光強度依存性評価を開始する。媒質中に分散した金属ナノ粒子複合材料の3次の非線形性は、構造因子と材料因子からなる。すなわち金属材料の非線形性(材料因子)がナノ構造により増強された光電場(局所場因子)によって増大されることになる。一般にこの3次の非線形性による過渡応答は励起光強度に比例するが、非線形項による局所場因子の変調が大きい場合、直線的変化から外れることが期待される。上記解析結果を基に局所場増強を目的として形状・サイズを制御した金属ナノ粒子の作製をイオン注入法や速度論的化学合成手法によって行い、非線形性の増大を目指す。非線形性の増大により、光双安定現象が起きた場合は、不連続な応答を示し、スイッチ動作が実現する。スイッチ動作の実現後は、さらなる性能向上(低励起光強度、高利得)を目指す。他方、過渡応答の変調は、高次の非線形項(5次、7次...)によっても起きる可能性がある。その寄与の可能性についても考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
非線形光学計測の光源であるフェムト秒レーザーシステムの保守費用並びに計測用の光学部品代、ナノ粒子材料の作製に必要な試薬代と材料費として使用する。また研究成果の発表のための国際学会、国内学会の出張旅費並びに論文投稿料として使用する。
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