研究課題/領域番号 |
24560059
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
武田 良彦 独立行政法人物質・材料研究機構, 量子ビームユニット, グループリーダー (90354357)
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キーワード | 非線形光学 / 3次光学感受率 / 分光エリプソメトリー / フェムト秒ポンププローブ分光 / プラズモニクス / プラズモニックスイッチ / 光双安定性 / ナノ粒子 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、光制御による単一ナノ粒子の光スイッチングを実現することである。金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴とナノ粒子自身の内在する3次の光学非線形性を利用することにより、局所電場(ナノ粒子の内部電場)を変調し、光双安定性機能を発現させる。その実現には、まず非線形光学定数である3次光学感受率の波長分散特性の定量的計測評価を行う必要がある。 本年度は、粒子サイズにより共鳴強度が大きく変化するAgナノ粒子に関して着目して、ナノ粒子自身の3次光学感受率(材料定数)の波長分散特性の計測評価解析、粒子径3~16nmにおけるサイズ依存性の評価を行った。 評価用試料の作製は石英ガラス基板への負Agイオン注入により行った。ナノ粒子径はイオン注入量により制御した。粒子径等の構造評価に関しては、小角X線回折測定・解析により行った。非線形光学特性評価は熱変調効果が無いフェムト秒レーザーパルスによるポンププローブ法と分光エリプソメトリーによる光学的構造解析により行った。計測は内部電場の変調が無視できる低パワー領域で行った。 線形光吸収強度は局所電場(ナノ粒子の内部電場)の2乗に比例するのに対し、3次の非線形による有効非線形効果は4乗に比例する。しかしながら、有効非線形効果は著しい増大を示さなかった。解析結果よりナノ粒子自身の3次光学感受率は大きなサイズ依存性を示すことがわかった。ナノ粒子サイズ増大とともに3次光学感受率は大きく減少しサイズ15nmで極小を示した。波長分散スペクトルは、第一原理計算による束縛電子励起のモデル計算(バルクモデル)とは異なった分散を示した。これは量子サイズ効果による離散的な準位の出現によるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、まず金属ナノ粒子材料の3次光学感受率の波長分散特性の計測評価及びサイズ効果の解明を行う。その解析結果を基に材料設計・作製を行い、最終的にナノ粒子の局所電場(内部電場)を変調し、光双安定性によるスイッチ動作を発現させる計画である。 本年度は、前年度Auナノ粒子材料で成功したナノ粒子自身の3次非線形光学感受率の実験的導出をAgナノ粒子材料について適用し、さらにサイズ依存性を詳細に解析評価し、その導出に成功した。3次の非線形光学感受率に関しても量子サイズ効果に起因するサイズ依存性があり、そのサイズに非常に敏感であることを実験的に明らかとした。本結果はナノ非線形光学材料としての材料設計に役立つもので、ナノフォトニクス、プラズモニクス分野においてデータベースとして有用である。 以上のように第2段階としての3次非線形光学定数評価において、ナノサイズに起因する詳細な解析に成功しており、研究の進捗状況としては、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までに得られた成果で、フェムト秒ポンププローブ分光計測と分光エリプソメトリーによるAuナノ粒子材料、Agナノ粒子材料のナノ粒子自身の3次光学感受率の導出に成功し、特にAgナノ粒子材料では、サイズ依存性についても明らかとした。これらのナノ粒子材料のサイズ効果について解析をさらに進める。 平行して過渡的非線形応答の励起光強度依存性評価を開始する。媒質中に分散した金属ナノ粒子複合材料の3次の非線形性は、構造因子と材料因子からなる。すなわち金属材料の非線形性(材料因子)がナノ構造により増強された光電場(局所場因子)によって増大されることになる。一般にこの3次の非線形性による過渡応答は励起光強度に比例するが、非線形項による局所場因子の変調が大きい場合、直線的変化から外れることが期待される。上記解析結果を基に局所場増強を目的として形状・サイズを制御した金属ナノ粒子の作製をイオン注入法や速度論的合成手法によって行い、非線形性の増大を目指す。非線形性の増大により、光双安定現象が起きた場合は、不連続な応答を示し、スイッチ動作が実現する。スイッチ動作の実現後は、さらなる性能向上(低励起光強度、高利得)を目指す。他方、過渡応答の変調は、高次の非線形項(5次、7次...)によっても起きる可能性がある。その寄与の可能性についても考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
非線形光学計測の光源であるフェムト秒レーザーシステムの保守費用(調整、部品交換等)分を見込んでいたが、今年度はレーザー装置の状態が良好で調整のみで部品交換まで至らなかったため、次年度使用額が生じた。 フェムト秒レーザーシステムの保守費用並びに計測用の光学部品代、ナノ粒子材料の作製に必要な試薬代と材料費として使用する。また研究成果の発表のための国際学会、国内学会の出張旅費並びに論文投稿料として使用する。
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