研究課題/領域番号 |
24560063
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
中野 武雄 成蹊大学, 理工学部, 助教 (40237342)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 大電力パルススパッタ / プラズマ電位制御 / 薄膜構造制御 |
研究概要 |
本申請研究の目的は、大電力パルススパッタ(High Power Pulsed Magnetron Sputtering: HPPMS)とプラズマ電位の制御を組み合わせることで、堆積される薄膜の構造を制御する手法を確立することである。具体的には、HPPMSで得られる高密度プラズマによってスパッタ粒子のイオン化を促進し、プラズマ-基板間の電位差によってエネルギーを付与して基板に入射させ、膜構造を緻密化する。 研究申請の段階では、パルスoff期のターゲット電位を正に制御し、アフターグロープラズマがこの電位を遮蔽しようとして自らの電位を高める効果を利用する計画であった。パルスon時に生成した堆積粒子イオンが基板に輸送されるタイミングと、電位の高いアフターグローに切り替えるタイミングとを同期させることを、主要な実験目的としていた。 しかし本年度初頭に、プラズマ電極を制御するための電極を装置に追加すれば、パルスon期にもプラズマ電位の制御が可能で、上述のようなHPPMSの特性をより効果的に引出すことが可能であろうとの着想に至った。具体的には、ターゲット(カソード)およびアノードキャップからなる2インチのスパッタガンの上部に、高さ15mmの円筒型電極を追加した。この電極に、接地電位に対して+0~40V程度の電位を加え、ターゲットカソードのoff期電位は通常の0Vで放電させた。 この方針で成膜実験とプラズマ計測とを優先して行い、実際にプラズマon期にもプラズマ電位の上昇がプローブ測定によって確認できた。また従来のパルスoff期ターゲット電位によって膜構造の変化を得るには+100V程度の電位が必要だったのに対し、新たな方法では追加電極電位+20~40Vほど(ほぼプラズマ電位に等しい)で顕著な膜構造の変化を観察できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績の概要で述べたような研究方針の変更によって、HPPMSとプラズマ電位の制御によって緻密な膜を得る手法を確立する、という研究の大きな目的については、まずひとつの手段を実現できたものと考えている。 「プラズマは自らに接する電極のうち、もっとも高い電位のものに自らの電位を上昇させる」という、本研究が立脚する仮説についての検証にも進展があった。今回の手法ではDC測定が可能となったため、より詳細な検証実験と、電位上昇に関するメカニズムの提案とができた。実験的には、放電中に各電極へ流れる電流とプラズマ電位との相関を調べ、追加電極へ流入する電流の増加と、プラズマ電位上昇とが対応していることを見出した。この背後のメカニズムを以下のように提案した。プラズマ電位と同程度ないしより高い電位の電極への電流は、主として電子が担う。一方プラズマ電位以下の電位の電極への電流はイオンによるものが主となる。このため両者の易動度の違いから、プラズマに出入りする電流をバランスさせるためには、プラズマ電位が上昇する必要があると理解できた。 ただし今回の手法は、新規電極を追加するという、成膜装置に改変を要するものである。今回の手法をより汎用化するには、やはりパルスoff期のターゲット電位を制御するという、当初提案の手法をより具体的に詰める必要もあるかと考えている。上記実験と平行して、パルス放電のタイミング制御をより精密にできる電源を作製した。業者との打ち合わせを経て予定通り10月末に納入されたが、運転時に不具合が発生し、保護回路の追加が必要となったため、本電源を用いた実験は25年度以降に行われることとなった。 以上のように、予定以上に進展した部分と、予定より遅れている部分があり、総合して「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
電極追加方式、パルスoff期ターゲット電位制御方式の両者それぞれについて、研究を進展させたいと考えている。 電極追加方式については、従来は接地電位に短絡されていたアノードキャップを、電気的にフロートさせたスパッタガンを新たに作製し、このアノードキャップをプラズマ電位制御に用いて、同様の効果が得られるか実証したい。スパッタガンの上部に円筒電極を設ける方法では、これがスパッタ粒子に対する遮蔽となってしまい、堆積効率を低下させる恐れがあったが、新方式ではスパッタ粒子の輸送については従来と同様で、プラズマ電位のみを制御した成膜が可能になるものと考えている。 パルスoff期のターゲット電位を制御する方式については、24年度に製作の新規電源を用いて、onパルスの幅をパラメータとした条件探索を行いたいと考えている。すなわち、on期に発生するプラズマによってスパッタ・イオン化された堆積粒子が基板近傍へ到達するタイミングを、当初予定していた位置分解発光分光装置を通して評価したい。これは先述の通り、プラズマ電位の高い、off期のアフターグロープラズマへの切替タイミングを最適化するためであると同時に、スパッタ粒子がガス雰囲気中で衝突・散乱されながら輸送されていく過程を調べることにより、より一般的なスパッタ成膜プロセスの理解につながるものと考えている。 なお、これまでのスパッタ成膜実験は、いずれもHPPMSにおけるイオン化率が高いと言われているCuを対象に行ってきたが、各方式の実験が一段落したら、Ti、Moなどの他の材料についても実験し、本手法の効果を観察したい。特にMoについては、電解放出型の錐状電極というアプリケーションがあるので、各手法の有効性について確認・議論したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
電極追加方式について、アノードキャップ電位を可変にできるスパッタガンを作製する。当初申請時の計画では、ターゲット径の異なるスパッタガンを作製する予定であったが、その額をこちらに充当する。5月から作製打ち合わせを開始し、10月末までには導入できるようにしたい。 その他、真空部品・ターゲット材料・高純度ガスなどの消耗品については、予定の通り支出を行う。 平成24年度に得られた成果は、7月に京都で行われる12th International Symposium on Sputtering and Plasma Processesならびに9月にパリで行われる19th Ingernational Vacuum Congressにて発表する予定であり(いずれも講演申込は受理済)、参加費・滞在費に研究予算を充当する予定である。また論文投稿料ならびに校閲費の支出も予定している。 なお製膜装置の排気用ターボ分子ポンプが24年度末より不調となり、オーバーホール修理が必要となった。この額についても研究費より支出する予定にしている。
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