研究課題/領域番号 |
24560074
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
土井 祐介 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10403172)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非線形局在モード / 離散ブリーザー / 複素ノーマルモード |
研究概要 |
結晶格子に出現する,欠陥,転位,ILM などの格子スケールのコヒーレントな構造の伝播過程について格子の対称性の観点からダイナミクスの定式化のために,関係するモデルについての数値シミュレーションモデルの構築およびそのモデルでのILMの基本的特性についての解析を行った。またこれらのモデルのベースとなる数理モデルの構成法および基本的性質について解析を行った。 金属材料の積層構造に着目をし,そのフォノンバンドのギャップにおいて線形近似では出現しない非線形振動が存在しうるかどうかの検討を行った。積層周期によってバンドのギャップは変化するものの,非線形振動が出現しうる可能性が高いことを確かめた。これを踏まえて金属結晶の分子動力学シミュレーションと相空間内での非線形周期解を探索するニュートンラフソン法を結合した,周期解探索コードの構築を行った。これにより,積層材料において振幅の増大により振動数が増大する非線形周期解が存在しうることを確かめた。 一方、数理モデルにおいて非線形局在振動の伝ぱが起こりやすい格子モデルについても検討を行った。既に得られてている格子モデルの探索原理に基づいて数値解析プログラムの拡張を行い,多粒子系においても非線形局在伝ぱが起こりやすいモデルが十分に構築可能であることを確かめた。またこれらのモデルにおける線形ノーマルモードの安定性を調べるために数値シミュレーションを行い,不安定化の結果発生する多数の局在モードの衝突過程(カオス的ブリーザー)においてFermi-Pasta-Ulam格子で観測されるカオステクブリーザーとは異なり,お互いの局在モードが弾性衝突に近い形で衝突を繰り返すことが確かめられた。これにより局在モードの伝ぱ性と局在モード間の相互作用の間に大きな関係がある可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画に基づいて解析を進めた結果,理論モデルでの解析について,対称格子における局在構造の集団挙動について,当初の予想とは異なる興味深い解析結果が得られた。これらについては今後の研究においても注目をして進めていこうと考えている。一方現実のモデルにおける分子動力学シミュレーションについてもモデルの構築が終わりつつあり,今後研究目的に沿った形で研究を遂行できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた対称格子モデルにおける局在構造の振る舞いのうち、多数の局在構造が相互作用しあう場合について着目し,通称のFermi-Pasta-Ulam格子における振る舞いとの比較を行うことによって対称格子モデルの特性を明らかにする。統計的手法による多数の構造のダイナミクスの平均化と,個々のダイナミクスに着目した素過程の解析を並行して行い,局在構造の集団挙動のメカニズムについて明らかにする。対称格子モデルにおける振る舞いは一般の非線形格子モデルの理想化になっていると考えられるので、その振る舞いを明らかにすることは局在構造のダイナミクスの普遍的な理解のために極めて重要である。 一方,現実のモデルににおいては,欠陥や転位が結晶格子を伝播するとき,構造が振動しながら格子間移動の実効的ポテンシャルを乗り越えると考えられる。また ILMについては振動モードそのものが移動していく。時間的な周期振動は相空間において周期軌道を取る。振動が系を伝播する場合も周期軌道が少しずつシフトするトーラス軌道が観測されると考えられる。このような構造を数値的に求めるための手法を開発する。 さらに現実の結晶をに対応するモデルでの対称格子の構築のためにMDによるコヒーレントな構造の伝播の直接シミュレーションを行い,複素ノーマルモード空間での振る舞いを解析する。グラフェンおよびカーボンナノチューブの結晶モデルについて欠陥,転位,ILMの伝播過程を解明する。物理モデルにおいては系の離散性の影響で,連続的な移動を抽出できない可能性があるが,この場合でも格子不安定性解析および周期軌道の安定性理論を用いることによって,結晶内のどの方向に動き易いかを解析することができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進展に伴い,高性能計算機の導入を行う。XeonPhiなどの並列計算コアによる高速化を検討する。また研究成果発表のために国内外の学会・研究会で研究報告を行う。
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