研究課題/領域番号 |
24560086
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
小沢 喜仁 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (00160862)
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研究分担者 |
渋谷 嗣 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00154261)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 材料設計 / プロセス / 物性・評価 / 摩擦摩耗特性 |
研究概要 |
申請者らは,酢酸菌が生成する繊維径10nmの天然繊維バクテリアセルロース(BC)を用いて,摩擦摩耗特性に優れた新規摺動材を開発した.水分を含んだBC繊維網へのフェノール樹脂を直接含浸する手法を用いてBC-FRPプリプレグを成型し,焼成してBC炭素繊維の三次元ナノ構造をもつC/Cコンポジット材料とした.平成24年度においては,次に述べるような成果を得た. (1)BCマイクロフィブリルの最適な分散状態の形成;BC-FRPプリプレグの直接含浸法及びその応用に関する出願「摺動部材の製造方法,2008年8月4日出願,国立大学法人 福島大学・福島県,特願2008-200617」が特許として認められた.BCマイクロフィブリルの分散性とフェノール樹脂の含浸・充填性について改善を行い,摺動材料に適したBC分散状態の高次構造をもつFRPを得た. (2)FRP 成型における材料中に生じるボイド欠陥の除去;フェノール樹脂は加熱による脱水縮合反応で硬化するため,重要な工程であるプレス成型時にガス抜き工程において施工回数の増加と真空装置を用いた脱気などにより製品性能向上を試みた.作製したFRP成型体を用いて焼成実験を行い,700~1100℃までの範囲で成型温度と昇温速度の摩擦・摩耗特性に及ぼす影響を明らかにした.比摩耗量においては焼成温度が高いほうが小さく,動摩擦係数については焼結温度及び昇温速度による影響は小さいことがわかった. (3)接触面の弾性数理解析;材料の機械的特性の評価のために,粒子分散強化した多孔質性複合材料としてモデル化し,異方性を含めた機械的特性について検討した.多孔質体を一方向に加圧して成形した場合を想定し,扁平な楕円体の空孔と強化粒子を周期的領域においてランダムに分布させた.作成したモデルを用い,均質化理論に基づき材料の弾性特性に及ぼす空孔と粒子の扁平率と異方性の関係について調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては,研究期間において,この新規摺動材C/Cコンポジットがもつ優れた摩擦摩耗特性の解明および最適な成型条件の決定を目的とする.摩耗粉の脱落を妨げるナノレベルでのファイバー・ブリッジング効果について弾性数理解析を行い明らかにするとともに,最適な特性を得るためのBC繊維の処理,添加物の効果,および焼成など材料技術開発を行うとしている. 本年度においては,当該年度に実施を計画した項目において一定の成果を得ており,ほぼ順調に推移していると考えている. 本年度は,焼成前段階のBC-FRPプリプレグの直接含浸法の改良,FRP 成型における材料中に生じたボイド欠陥の除去,および接触面の弾性数理解析が主たる項目である.BC-FRPプリプレグの製作についてはBCマイクロフィブリルが生物由来の分散分布を持つことに注目して粉砕を試みるなどの方法が改善に繋がっている.また,FRP成型時には,真空装置を用いた脱気および脱水も併用して,ボイド欠陥の低減に大きな効果があることを確認した.新規摺動材の摩擦摩耗に関する弾性数理解析のための基礎として,研究分担者と協力により,作製したC/Cコンポジットを粒子分散強化した多孔質性複合材料としてモデル化した場合の解析が成功し,材料の弾性特性に及ぼす空孔と粒子の扁平率と異方性の関係について調べた.これにより,今後の解析の可能性が示されたと考えており,総合的に判断して,ほぼ順調に推移しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
申請書においては,平成25年度の計画として,下記の3項目を検討することを計画している. ・FRP 材料の炭化・焼結工程の検討 ・第3成分としての添加剤の検討, ・BC炭素繊維のナノファイバー・ブリッジング効果に関する弾性数理解析 計画はほぼ順調に進行していることから,昨年度末より700~1100℃までの範囲で成型温度と昇温速度の摩擦・摩耗特性に及ぼす影響を明らかにするなど,これらの項目についてすでに検討を開始している.材料の強度・弾性率を向上させるため,炭化・焼結工程については1100℃以上での特性を評価しながら焼結温度を1500℃まで上げ,BC 由来のナノ炭素繊維の黒鉛化を図りたい.黒鉛化工程においては,材料の黒鉛化の度合いが材料特性に大きく影響を及ぼすことから、この分野を専門とする研究協力者や企業技術者の意見も踏まえて検討することとしている.また,第3成分としての添加剤として,イネ科の植物である竹粉などを取り上げ,ケイ素が豊富であることを利用して,焼結時にSiC を形成させてさらなる摩耗特性の向上を検討する.弾性数理解析についても,研究分担者と定期的な研究打合せを重ねて摩擦・摩耗機構をモデル化し,摩耗粉の脱落を妨げるBC炭素繊維のナノファイバー・ブリッジング効果について弾性数理解析を行って,BC由来の炭素繊維の効果を明らかにする.本材料の特徴である,ナノレベルの複合材料としての繊維の強化メカニズム,破壊じん性の向上の原因であるき裂進展抵抗の検討,表面のせん断力による摩耗粉形成のメカニズムの検討をマルチスケール解法と均質化法を適用した弾性数理的手法により検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究計画を実施するために,代表者90万円,分担者30万円を使用して、この年度の研究計画の達成にあたる. 当該年度においては,焼結温度1500℃という高温領域での炭化・焼結工程の改善に要する経費の増加を予想しているが,効率的な実験計画によりこれを抑える工夫をしたい.一方で,材料製作の手法が定まりつつあるなか,挑戦するべき異なる材料組成をもつC/Cコンポジットに関する検討も必要になってきており,摺動試験の稼働時間が長くなることも予想される.このことから,平成24年度に生じた残額68,401円については,摺動試験装置の製作に要する費用の一部として適切に使用し,摺動試験の効率化を図りたい. なお,分担者が使用する研究経費配分30万円は,主としてBC炭素繊維のナノファイバー・ブリッジング効果に関する弾性数理解析において,解析の実施,研究打合せ,および研究成果の公表に係わる経費として使用する予定である.摩耗粉の脱落を妨げるナノレベルでのファイバー・ブリッジング効果について弾性数理解析を行い明らかにするとともに,最適な特性を得るためのBC繊維の処理,添加物の効果,および焼成など影響を明らかにして,総合的に材料技術開発を行う.
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