研究課題/領域番号 |
24560087
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
梅野 宜崇 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (40314231)
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キーワード | 強誘電体 / ドメインスイッチング / シミュレーション / 構造不安定性 / 第一原理計算 / マルチフィジックス |
研究概要 |
強誘電材料は,不揮発性メモリデバイス(FeRAM),MEMS アクチュエータ,センサ,環境エネルギー回収発電など様々な応用範囲を持つ.強誘電材における,ドメイン壁移動による分極スイッチングに及ぼす結晶欠陥や界面の影響が大きく関与していると考えられる機能劣化メカニズムを明らかにすることが本研究の目的である.そのため本研究では,強誘電体の電気分極(電気ひずみ)と機械的ひずみの連成効果を適切に記述できる原子間ポテンシャルを第一原理ベースで開発し,それを用いた原子モデル解析(分子動力学計算)によってドメイン壁移動のシミュレーションを行っている.昨年度確立した高効率な原子間ポテンシャル構築アルゴリズムを利用し,電荷分極項を含めた電気双極子型原子間ポテンシャルを作成することに成功した.チタン酸鉛(PbTiO3)のドメイン壁移動の分子動力学計算を行い,構造欠陥がドメイン壁移動に及ぼす影響,ならびに外部応力(多軸応力)によるドメイン壁移動条件の変化を検討した.温度によるドメイン壁構造およびドメイン壁移動臨界応力への影響、キンク構造によるドメイン壁移動臨界応力への影響などが明らかとなった.また,我々の提唱する原子構造不安定性解析法による構造不安定条件・不安定モード評価については,構造欠陥近傍に発生する潜在的な不安定モードが熱揺らぎなどによって確率論的に活性化するメカニズムを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度に開発した原子間ポテンシャルの高効率作成アルゴリズムを拡張し,チタン酸鉛・チタン酸バリウム等の代表的な強誘電体材料に対して,電気分極(電気ひずみ)と機械的ひずみの連成効果を適切に記述できる原子間ポテンシャルを第一原理ベースで開発するためのアルゴリズムを整備し,ポテンシャル作成を行った.作成したポテンシャルの信頼性は第一原理計算および実験値との比較によって検証し,高い精度を持つものであることを確認した.本年度の計画であった強誘電材ドメイン壁移動の分子動力学解析は予定通り順調に行うことができ,先述のように応力負荷によるドメインスイッチングと,温度や構造欠陥がドメイン壁移動に及ぼす影響のメカニズムについて原子レベルから明らかにすることができた.ドメイン壁スイッチングの原子シミュレーションは世界的に見てもほとんどなされておらず,本研究が世界をリードしていると自負している.また,原子レベル構造不安定条件・変形モード解析についても計画通り順調に進んでおり,原子レベルの構造不安定性発現のメカニズム,とくに潜在的変形モードの発生とその活性化メカニズムが明らかになりつつある.得られた結果については国内および国際会議での発表を行い好評を博するとともに,国際学術雑誌にも論文発表を行った.研究の進捗状況はほぼ当初計画通り,あるいはやや上回るペースである.
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今後の研究の推進方策 |
酸化物強誘電材に対する原子間ポテンシャルの作成は引き続き行い、これまで開発したポテンシャル精度のさらなる向上を目指す。特にチタン酸バリウムなどでは多くの相(結晶構造)間の凝集エネルギー差がきわめて小さく、多くの相に同時に対応できるポテンシャルの作成は一般的には困難であるが、これまでに整備したポテンシャル作成アルゴリズムを適用することでこの問題に対処する。応力だけでなく電場誘起のドメイン壁移動の分子動力学解析を進めるとともに、構造欠陥によるドメイン壁移動のピン止め効果についてのシミュレーションも進める。具体的には、ドメイン壁付近の酸素空孔のエネルギー評価を行い、酸素空孔が存在しやすいサイトを特定する。空孔を導入したモデルに応力および電場を負荷し、ドメイン壁移動を起こす臨界応力および電場が空孔のないモデルと比べどれほど上昇するかを求める。原子構造不安定性解析法による構造不安定条件・不安定モード評価を行い、構造欠陥が潜在的不安定変形モードにどのように影響するかを調べることで、欠陥によるドメイン壁移動ピン止め効果のメカニズムを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定していたグラフィックボード搭載ワークステーションが比較的安価に調達できたことと,データ補助などのため人件費を計上していたがデータ可視化ソフトを予想外に拡充することができ事務職員を時間雇用せずに進めることができたためによる. 多相に対応するポテンシャル作成と、それを用いた分子動力学計算、および原子構造不安定性解析法による構造不安定条件・不安定モード評価を加速するため、マルチコアを搭載したワークステーション一式を購入する. また,国内外の研究集会に参加して研究成果発表を精力的に行っていくため,国内・海外旅費として使用する.
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