研究課題/領域番号 |
24560093
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
植松 美彦 岐阜大学, 工学部, 教授 (80273580)
|
キーワード | 疲労 / 腐食疲労 / 窒素固溶 / 表面硬化 / 窒化物析出 |
研究概要 |
1100℃および1200℃の窒素環境下で窒素中焼鈍を行ったSUS304を用い,大気中にて疲労試験を行ったところ,未処理材と比較して疲労強度が大きく向上した.EDXによる面分析および線分析に基づき,マトリックス中に固溶した窒素のみで無く,窒化物CrNの析出による硬さ上昇が疲労強度向上の要因である事を指摘した.一方,塩水中における腐食疲労試験では,未処理材よりも疲労強度が低下した.その可能性として,結晶粒の粗大化と材料の鋭敏化が考えられたため,硝酸エッチングによる組織観察ならびに分極特性の解析を行った.その結果,窒素中焼鈍を行った材料のみに顕著な粒界腐食が認められ,窒素中焼鈍による腐食環境中における疲労強度低下が,粒界への窒化物析出と,それに伴うCr欠乏層の形成によることを実験的に明らかにした.そこで,窒素中焼鈍を施した材料に対して再溶体化(RST)処理を行う事で,窒化物の拡散・再固溶を試みた.RST処理によって粗大なCrNは消失したが,表面硬さや大気中の疲労強度は未処理材よりも高く,機械的性質向上が窒素固溶によって保たれている事が明確になった.しかしRST処理材を用いて腐食環境中で疲労試験を行ったところ,未処理材よりも疲労強度は低下した.すなわち,RST処理によって粗大な窒化物は消失するが,粒界に析出したサブミクロンサイズの窒化物が消失せず,RST処理では鋭敏化を解消することが困難である事が判明した.一方,β型Ti合金Ti-15Mo-5Zr-3Alを1200℃で窒素中焼鈍したところ,表面にα型Tiが析出するとともに,TiNの析出も認められ,表面が硬化した.そこで,より多くの試料を用いて大気中の疲労試験を実施した.しかし,表面硬さが上昇しているにもかかわらず,疲労強度は未処理材よりも低下した.結晶粒の粗大化,もしくは粒界へのぜい性的なTiN析出が,疲労強度低下の要因と考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒素中焼鈍によって,SUS304およびβ型Ti合金ともに表面硬度が上昇した.いずれも摺動特性の悪い材料であるため,表面硬度の上昇は耐摩耗性の面で工学的重要性が大きい.また,SUS304において疲労強度が大きく上昇したことは,材料の高強度化という観点からは目的が達成できたと言える.しかしながら,SUS304の腐食環境中における疲労強度は低下しており,生体材料としての適用を考えた場合に問題となる.窒素中焼鈍処理後の再溶体化処理によっても腐食環境中での疲労強度は向上しなかったが,硝酸エッチング等によってCr欠乏層に起因した鋭敏化のメカニズムが明らかとなった.すなわち,鋭敏化を防ぐ他の熱処理手法を適用する目処がついたことにより,当初の目標を達成したと言える.β型Ti合金については,大気中の疲労強度が,窒素中焼鈍によっても向上しなかった.そのメカニズムが明確では無いが,組織観察から結晶粒粗大化とTiN析出が要因と考えられる.要因を抽出できたことで,疲労強度向上の手法提案が可能となった点で目標を達成したと考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
SUS304については,窒素中焼鈍によって大きく疲労強度が向上したが,同時に鋭敏化によって耐食性が低下すると言う問題が生じた.また,窒化物を再固溶させるような再溶体化(RST)処理を行ったが,RST処理でも鋭敏化を解消できなかった.SUS304の鋭敏化については,窒素中焼鈍過程での炉冷も主因となり得るため,高温炉から直接水冷できるようなシステムにより,窒素中加熱状態からの急冷によって鋭敏化を防ぐことを検討している.そのような急冷材を用いて,組織観察や疲労試験を実施する必要がある.またβ型Ti合金については,硬くてもろいTiN相が析出し,疲労強度低下をもたらしたと考えられる.そこでTiNを再固溶するためのRST処理を施し,組織観察や疲労試験を行う.
|