1200℃で窒素中焼鈍を行ったSUS304を用い,大気中で疲労試験を行ったところ,未処理材と比較して疲労寿命が大きく向上したが,塩水中における腐食疲労試験では未処理材よりも寿命が低下した.この原因として粒界への窒化物析出と,それに伴うCr欠乏層の形成によることが確認されたため,窒素中焼鈍を施した材料に対して再溶体化(RST)処理を行う事で窒化物の再固溶を試みた.しかし窒化物は十分に消失せず,RST処理では鋭敏化を解消することが困難であった.窒化物は,窒素中焼鈍処理における炉冷過程で生じていることが予想されたため,最終年度では,1200℃の窒素環境下で窒素固溶処理を実施した後,窒素を充填した炉から直接試験片を水冷する焼き入れ(QT)処理を行うことで,窒化物析出の抑制を試みた.QT材は表面硬度については窒素中焼鈍材およびRST材と同程度であった.塩水中疲労試験を実施したところ,窒素中焼鈍材およびRST材よりは長寿命の疲労強度が得られ,窒化物の抑制に成功した.しかし,依然として未処理材よりも腐食疲労寿命が短く,硝酸エッチングによってごく一部にCr欠乏層が形成されていることが確認された. β型Ti合金Ti-15Mo-5Zr-3Alについては,結晶粒の粗大化もしくは粒界へのぜい性的なTiN析出によって,窒素中焼鈍材は未処理材よりも大気中の疲労強度が減少した.そこでβ型Ti合金に対してもRST処理を施し,TiNの再固溶を試みた.組織観察の結果,RST処理によってTiNは再固溶したが,結晶粒粗大化の影響が大きく,RST材の疲労強度は未処理材よりも低いままであった. 期間全体を通し,固相窒素吸収によってSUS304およびβ型Ti合金の表面硬化に成功し,特にSUS304については大気中の疲労強度向上が著しかった.しかし窒素中焼鈍処理によってSUS304では鋭敏化,β型Ti合金では結晶粒粗大化が発生し,それらの影響は後熱処理によっても十分には抑制できなかった.
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