研究課題/領域番号 |
24560095
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
坂井田 喜久 静岡大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10334955)
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キーワード | 電子線後方散乱回折法 / 局所方位差 / 領域平均 / 全硬化層深さ / 残留応力 / 固有ひずみ |
研究概要 |
異なる2条件で浸炭焼入したクロムモリブデン鋼のモデル試験片に対し,X線と中性子線による応力測定を行い,浸炭による残留応力の分布状態を実測した.また,浸炭焼入前後のモデル試験片から断面試験片を切出して断面の硬度と炭素濃度を測定し,断面硬度と炭素濃度のこう配から全硬化層深さを求めた. 次に,浸炭焼入前後の試験片断面に対して,走査電子顕微鏡下で電子線後方散乱回折法による結晶方位解析を行い,浸炭表面から内部方向にわたるEBSD(Electron backscattering diffraction)パターン上の隣接測定点間の局所方位差KAM(Kernel average misorientation)をマッピング測定した.本研究では,全硬化層深さの10分割に相当する評価深さ毎に局所方位差の領域平均を求め,全硬化層深さや浸炭後の残留応力と比較して,微視的な結晶方位情報から硬化層深さや残留応力分布が評価できるか検討した. その結果,局所方位差の計算で用いる“しきい値”を60°に設定することで,浸炭表面から内部にわたる硬化層の組織変化を局所方位差の領域平均で捉えることができることを明らかにした.また,局所方位差は,浸炭焼入前後でその分布は大きく変化し,硬化層の領域平均は,硬化層より深い内部の領域平均や浸炭前の材料組織の領域平均より増加することを明らかにした.さらに,浸炭焼入により増加した領域平均が一定値に漸近する深さは,全硬化層深さと良く一致し,その1.4倍の深さで圧縮残留応力が一定値となることを実験的に明らかにすることができた.以上のことから,浸炭焼入後の硬化層深さや硬化層に発生する残留応力は,硬化層断面の微視的なマルテンサイト変態とそれに伴う結晶情報や方位変化に依存して分布しており,局所方位差の領域平均で間接的に捉えることができることを示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究成果を用いて浸炭焼入したクロムモリブデン鋼の断面試験片の研磨条件を最適化し,硬化層断面に対し,走査電子顕微鏡による結晶方位解析を行い,EBSDパターン上の隣接測定点間の局所方位差から浸炭表面から内部にわたる複雑な組織変化を定量的に評価する方法を見出すことができた. また,本手法から,硬化層の局所方位差の領域平均は,浸炭前の領域平均より増加し,かつ,増加した領域平均が浸炭表面からの距離とともに減少し,一定値に漸近する深さは,全硬化層深さとほぼ一致することを明らかにすることができた.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画通り研究を実施する.走査電子顕微鏡による浸炭焼入材の結晶方位解析については,新たな浸炭焼入試験片を作製して硬化層の局所方位差の領域平均を求め,全硬化層深さや硬化層生成に伴う残留応力の発生深さとの相関関係をさらに定量化する.また,硬化層から切出した薄片の弾性率を実測する方法として新たに共鳴超音波スペクトロスコピー法を適用し,これまで測定が困難であった表面と内部の中間領域の弾性率測定を行うとともに,局所方位差や領域平均の評価方法の再検討と熱処理シミュレーションを行い,これまでの微視的評価結果や残留応力の発生深さとの新しい相関関係から残留応力の発生メカニズムについてミクロの観点から考察を加える.
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