本研究では,クロムモリブデン鋼を浸炭焼入し,浸炭硬化層断面に対して後方電子線散乱回折法による結晶方位解析を行い,浸炭前後の試験片断面から得られたEBSD(Electron backscattering diffraction)パターンを比較することで,浸炭焼入部品の硬化層と残留応力を左右する変態塑性ひずみのミクロ分布状態を微構造情報として評価する方法を検討した. 前半2年間の研究で,硬化層特性(硬度と残留応力の分布状態)を定量的に実測評価するとともに硬化層断面のEBSDパターンを測定し,取得した硬化層特性とEBSDパターン上の隣接測定点間の局所方位差KAM値(Kernel Average Misorientation)情報との相関関係を検討した.その結果,KAMの計算で用いる“しきい値”を一般に用いる2~5°とは全く異なる60°に設定することにより,KAM値を代表値とする微構造情報から硬化層特性を統一評価することができることを見出した. 最終年度は,異なる3つの浸炭処理条件で浸炭焼入した試験片を用い,硬化層断面の研磨条件をパラメータとして硬化層特性とEBSDパターンを再評価し,新らしい指標によるKAM値の評価結果から,硬化層特性は,硬化層断面の微視的なマルテンサイト変態とそれに伴う結晶情報や方位変化に依存して分布することを明らかにした.また,硬化層特性は,硬化層表面から内部にわたるKAMの領域平均を取得し,KAMの領域平均分布を捉えることで定量評価できることを示すことができた.
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