前年度までの研究では,アルミ(Al)系二層皮膜(アルミナ/Fe-Al)とアルミ系三層皮膜(アルミナ/Al/Fe-Al)の水素遮断機能を比較し,Al系三層皮膜が優れた水素遮断機能を有していることを明らかにした.低圧水素ガスを用いて従来の研究では,アルミナ層が優れた水素遮断機能を有することが知られている.しかし,Al系二層皮膜とAl系三層皮膜の表面には,ともにアルミナ層が表面に存在し,皮膜構造の違いはAl層のみである.よって,高圧水素ガス中におけるAl系三層皮膜の優れた水素遮断機能はアルミナ層によるものではなく,Al層によるものである.本年度は,Al系三層皮膜の優れた水素遮断機能のメカニズムを明らかにすることを目的とし,パラジウム(Pd)を付与したAl系三層皮膜を有する円柱試験片の水素侵入量の評価,直径の異なる円柱試験片を用いた水素侵入量の評価および二次イオン質量分析(SIMS)装置を用いた水素濃度分析を行った.その結果,皮膜付き試験片の水素侵入量はPdの有無によらずほぼ同じであり,皮膜の優れた水素遮断機能は水素の表面反応の影響によるものではなかった.また,皮膜付き試験片の水素侵入量は試験片直径に依存し,直径が小さいほど水素侵入量は多かった.これより,皮膜付き試験片の水素侵入は拡散律速で生じており,実質的な拡散係数は母材の1/1000程度であった.しかし,Alと母材の二層構造を仮定して計算した有効拡散係数は母材の1/1.1であり,このモデルでは実験結果を全く説明できず,Al層自体が水素侵入を抑制しているのではないことが分かった.SIMSを用いた水素濃度の分析から,Al層とFe-Al層の界面における水素トラップが母材への水素侵入を抑制したため,Al系三層皮膜は優れた水素遮断機能を示すことが明らかにされた.
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