研究課題/領域番号 |
24560107
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
真田 和昭 富山県立大学, 工学部, 准教授 (20363872)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 熱物理学 / 有限要素解析 / 材料試験 / 複合材料 / カーボンナノチューブ / 溶融フィラー / 熱伝導率 |
研究概要 |
本研究は、表面にカーボンナノチューブ(CNT)を付着させた炭素繊維フィラー含有の高温溶融フィラーとCNT単体含有の低温溶融フィラーを用いて、高効率伝熱ネットワーク構造を形成する高熱伝導性ポリマー系複合材料の開発を目指した理論的実験的研究を行うものである。本年度に得られた結果を要約すると以下の通りである。 (1)炭素繊維フィラー表面にCNTを付着させたハイブリッドフィラーの作製を試みた。エポキシ樹脂コーティングした炭素繊維フィラーにトリエチレンテトラミンで表面改質したCNTを付着させた結果、エポキシ樹脂が十分にコーティングされている部分にはCNTが凝集して付着している様子が観察できた。今後、エポキシ樹脂・CNT添加量を変化させて、炭素繊維フィラー表面へ均一にCNTを付着させるための条件を検討する。 (2)CNTと常温で固体状のエポキシ樹脂を複合化して、CNT含有の低温溶融フィラーを作製し、加熱による溶融挙動を明らかにした。エポキシ樹脂中に低温溶融フィラーを1粒投入し、60℃で加熱硬化しながら、溶融挙動を観察した結果、面積比で定義した広がり率はCNT体積分率0.05vol%で3程度となったが、CNT体積分率の増大に伴い広がり率は減少し、0.3vol%以上で広がり率は1程度となった。これは、CNTが凝集しているためと考えられる。今後、CNTの最適形状と均一分散手法を検討する。 (3)低温溶融フィラー/炭素繊維フィラー/エポキシ樹脂複合材料とCNT/炭素繊維フィラー/エポキシ樹脂複合材料を作製し、熱伝導率を測定した。低温溶融フィラーを用いた複合材料の熱伝導率はCNTを直接分散した複合材料の場合とほぼ等しくなった。これは、局所的な溶融フィラーによるCNTの伝熱経路が形成されたためと考えられ、十分に溶け広がる溶融フィラーを用いることで、熱伝導率はさらに向上すると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、表面にCNT を付着させたハイブリッドフィラーの作製、CNT単体含有の低温溶融フィラーの溶融挙動の観察、低温溶融フィラーを用いた複合材料の熱伝導率測定を行った。高熱伝導性ポリマー系複合材料を実現するための重要な知見は得られたが、ハイブリッドフィラーおよび低温溶融フィラーに対して十分な機能を付与することができなかった。特にCNT単体含有の低温溶融フィラーがCNT体積分率0.3vol%以上で溶け広がらなかった点については、予想よりCNT体積分率の限界値が低かったため、早急に課題を解決する必要がある。また、ハイブリッドフィラー含有の高温溶融フィラーに対しても低温溶融フィラーの場合と同様な検討を行い、課題を抽出・解決していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、今年度に得られた結果と明確になった課題を鑑み、以下の方策で推進する。 (1)CNTの最適形状と界面活性剤添加等のCNTの分散手法を検討し、高いCNT体積分率でも溶け広がる低温溶融フィラーを開発する。また、炭素繊維フィラー表面へCNTが均一に付着するための条件を検討し、高機能なハイブリッドフィラーを開発する。さらに、ハイブリッドフィラーを用いた高温溶融フィラーに対しても溶融挙動を明らかにし、高いフィラー体積分率でも溶け広がる高温溶融フィラー作製条件を確立する。 (2)溶融フィラーの溶融挙動を考慮して、高効率伝熱ネットワーク構造を形成したポリマー系複合材料の熱伝導特性に関する有限要素解析を行い、高熱伝導化を達成するために最適な低温・高温溶融フィラー配合条件を見出す。 (3)有限要素解析結果に基づき、低温・高温溶融フィラーとマトリックス(液状エポキシ樹脂)を複合化して、高効率伝熱ネットワーク構造を形成するポリマー系複合材料を作製する。また、作製した複合材料の硬化前の粘度と硬化後の熱伝導率の測定、内部構造の観察を行い、高熱伝導性と優れた成形加工性の両立の可能性と伝熱ネットワーク形成手法の有効性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費が生じた理由は、今年度整備したプロペラレスミキサー・微粉砕装置が安価で購入できたとともに、学生の研究補助の人件費が不要となったためである。次年度では、炭素繊維フィラーの表面にCNTを付着させたハイブリッドフィラー、CNT含有の低温溶融フィラー、ハイブリッドフィラー含有の高温溶融フィラーの開発をより一層推進する必要があるため、CNT、化学薬品、実験器具等の購入に充てる予定である。また、CNTの分散性を向上させるため、ハイスピードミキサー等の装置の購入も検討する。さらに、比較的大きなモデルに対して有限要素解析を実施するため、計算機用ソリッドステートドライブ、メモリ等を購入し、効率的に解析を行う予定である。
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