研究課題/領域番号 |
24560113
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟工科大学 |
研究代表者 |
山崎 泰広 新潟工科大学, 工学部, 教授 (70291755)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生体材料 / コールドスプレー / 低弾性 / 生体適合性 |
研究概要 |
超高齢化社会を迎えた我が国においては,疾病や事故により生じた生体機能の低下・欠損を人工的に回復する生体機能再建術の高度化がこれまで以上に必要となっている.再生医療発展の観点からのみならず国内産業の活性化のためにも,優れた性能と信頼性を有するインプラント材料を我が国独自の技術として開発することが強く期待されている. 本研究は,生体適合性に優れ,高い強度特性を有するインプラント材料を得るため,コールドスプレー法を援用したインプラント材料の表面改質技術を開発することを目的とする.具体的には,多孔質化により低弾性化を図った表面コーティングで生体適合性を実現し,基材により負荷を支持する機能分離を図ったコーティング複合材を開発する.一般に,皮膜の多孔質化は低強度化を引き起こすが,コールドスプレー法により成膜することにより,皮膜中に高い塑性ひずみを導入し,成膜後の熱処理中により再結晶を駆動力とした粒子結合強度の向上を図った.本年度は,成膜条件および後熱処理を組み合わせて準備したコールドスプレー試験片を対象に,弾性係数,耐力,皮膜の密着強度とプロセスパラメータの関係を調査した.さらに,走査型電子顕微鏡および電子線後方散乱回折法による微細組織観察・分析を実施し,低弾性・高強度皮膜を得るための最適プロセスパラメータを検討した. その結果,皮膜の機械的特性に及ぼすプロセスパラメータの影響を明らかにするとともに,皮膜の密着性や皮膜強度の観点から成膜後熱処理の重要性を明らかにした.さらに,皮膜の弾性率が骨と同等の10GPa程度まで,コーティング複合材としての弾性率が60GPaまでの低弾性率化を実現するとともに,皮膜の密着強度,皮膜強度に優れ,通常のTi合金の6割以上の耐力を有するインプラント複合材の開発に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,成膜条件および後熱処理を組み合わせて準備したコールドスプレー試験片を対象に,弾性係数,耐力,皮膜の密着強度とプロセスパラメータの関係を調査した.さらに,走査型電子顕微鏡および電子線後方散乱回折法による微細組織観察・分析を実施し,低弾性・高強度皮膜を得るための最適プロセスパラメータを検討した. これらの調査の結果,1)皮膜の機械的特性に及ぼすプロセスパラメータの影響を明らかにした.また,2)皮膜の密着性や皮膜強度の観点から成膜後熱処理の重要性を明らかにした.得られた知見に基づき,最適化した成膜プロセスで準備したコーティング試験片では,3)皮膜の弾性率が骨と同等の10GPa程度まで,コーティング複合材としての弾性率が60GPaまでの低弾性率化を実現できた.また,4)成膜後熱処理を施した試験片では,十分な皮膜の密着強度を有すること,5)十分な皮膜強度を有し,通常のTi合金の6割以上の耐力を有することを確認した.これらの結果から,提案した技術により,優れた生体適合性と高い強度特性を両立したインプラント材料の開発の目処を得た.
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今後の研究の推進方策 |
組織観察による気孔率を評価した結果,成膜後熱処理による気孔率の減少はわずかであり,弾性率にはほとんど影響を及ぼさないことを明らかにした.一方で,成膜後熱処理により皮膜強度と皮膜の密着強度が劇的に向上することを明らかにした.しかし,皮膜中の塑性ひずみ分布を鑑みると,本年度実施した成膜後熱処理の条件には改善の余地があることが明らかとなった.そこで,今後は,成膜後熱処理の最適化を図る予定である. さらに,信頼性向上のため,開発材の疲労強度を評価するとともに,実使用環境下での負荷を想定して,皮膜表面が繰り返し圧縮負荷を受ける条件下における皮膜強度を評価する予定である.繰り返し圧縮負荷条件下の皮膜強度評価を行うため,次年度研究費により,接触型動的加圧負荷装置を導入する.
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次年度の研究費の使用計画 |
繰り返し圧縮負荷条件下の皮膜強度評価を行うための接触型動的加圧負荷装置を購入する. また,国内外の学会において年度得られた成果の公表と関連研究に関する情報収集を行うための旅費を支出する.
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